ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ジーン・ショー/ブレイクスルー

2012-07-26 23:52:28 | ジャズ(ハードバップ)
約2週間ぶりの更新です。今日もJAZZ THE BESTお宝コレクションからの1枚ですが、極めつきのコレクターズアイテムを紹介します。謎のトランペッター、ジーン・ショーの「ブレイクスルー」。1962年にシカゴの名門レーベル、アーゴに残された作品です。そもそもジーン・ショーって誰やねんというのが大方のジャズファンのつぶやきでしょうが、フルネームはクラレンス・ユージーン・ショー。クラレンス・ショーの名前でチャールズ・ミンガスの「ティファナ・ムーズ」「イースト・コースティング」に参加していたトランペッターと言えば、よほどジャズ通の人ならわかってくれると思います。ただ、それ以外ではほとんど目にしないのでマイナーであることに変わりはないですね。それ以上に無名なのが残りのメンバー。テナーのシャーマン・モリソン、ピアノのジェイムズ・テイラー、ベースのシドニー・ロビンソン、ドラムのバーナード・マーティン。私の知識をフル動員しても全く聞いたことない名前ばかりです。



ただ、そんな名もなきミュージシャン達がなかなか痛快な演奏を聴かせてくれるのがジャズの奥深いところです。曲はオリジナル中心ですが、中でも軽やかなボサノバ調の“Marj”とそれに続くワルツ風の“Six Bits”が秀逸。両曲とも実にキャッチーで親しみやすいメロディを持った隠れ名曲です。ラストの哀愁漂う“It's A Long Way”も捨てがたい。1曲だけ既知の曲が入っていますが、それがかの有名な「ウェストサイドストーリー」の“Tonight”。マイナー調の演奏で“Dear Old Stockholm”を意識したようなアレンジが施されています。演奏ですがショーのプレイはさすがに名だたる一流トランペッターと比較すれば、高音部の音のハリなどが弱い気がします。でも、独特のくすんだ音色が曲の雰囲気とマッチしているのでさほど気になりません。他の無名ジャズメン達も及第点の演奏。何よりも楽曲が魅力的なので十分傾聴に値する作品となっています。騙されたと思って聴いてみてほしい1枚です。
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オスカー・ピーターソン/カナダ組曲

2012-07-13 23:53:55 | ジャズ(ピアノ)

本日はオスカー・ピーターソンが1964年にライムライト・レーベルに残した「カナダ組曲」をピックアップします。半年前に始めたこのブログでオスカーを取り上げるのは「ハロー・ハービー」「オスカー・ピーターソン・トリオ+1」についではや3回目。そう書くとまるで私が彼の大ファンみたいですが、実態は違ってむしろ今までは敬遠していたぐらいなのです。ジャズビギナーの頃に定番「プリーズ・リクエスト」を聴き、その軽快なピアノに親しみを感じる一方で、ノリ重視の深みに欠ける演奏に対して一段低く見ていたというのが率直なところです。私と同じような評価をしているジャズファンは他にもいるのでは?



ただ、この「カナダ組曲」はそんなオスカーのイメージを覆してくれる作品です。スタンダードの名曲をカクテル調に軽快に演奏するという従来のイメージとは違い、全曲自作曲で固めた入魂の力作。しかも、カナダのケベック出身(ここがまず意外なんですが)のオスカーが、曲ごとに故郷への思いを綴った明確なコンセプトを持つ作品なのです。特に冒頭の幻想的な“Ballade To The East”や、続く愛らしいメロディの“Laurentide Waltz”はビル・エヴァンスもかくやと思わせるロマンチックな展開。途中アップテンポな“Place St. Henri”やブルージーな“Hogtown Blues”など彼本来のイメージを裏切らない曲もありますが、小麦の広がる草原をイメージしたリリカルな“Wheatland”、ラストの“Land Of The Misty Giants”など全編を通じて静謐な美しさに満ちあふれた作品です。サポートメンバーはいつものレイ・ブラウン(ベース)&エド・シグペン(ドラム)。黄金のトリオの隠れた傑作です。

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バディ・デフランコ/スウィート・アンド・ラヴリー

2012-07-12 19:52:56 | ジャズ(ウェストコースト)

本日は白人クラリネット奏者バディ・デフランコを取り上げます。クラリネットはスイングジャズの時代こそベニー・グッドマン、ウディ・ハーマンなど多くのスタープレイヤーを輩出する人気楽器でしたが、ビバップ以降はすっかり目立たない存在となりました。ビッグバンドのアンサンブルや歌伴には欠かせない楽器ではあり続けたものの、スモールコンボでコンスタントにリーダー作を発表したとなるとこのデフランコぐらいではないでしょうか?



今日紹介する「スウィート・アンド・ラヴリー」は1954年から翌55年にかけて録音されたもので、デフランコが50年代前半にヴァーヴ・レーベルに集中的に吹き込んだ作品の一つです。サポートメンバーはソニー・クラーク(ピアノ)、ジーン・ライト(ベース)、ボビー・ホワイト(ドラム)。55年のセッションには通好みの白人ギタリスト、タル・ファーロウも加わっています。ジャズファン的に目を引くのがあの「クール・ストラッティン」のクラークの参加でしょう。実はクラークはブルーノートと契約する前は主に西海岸でプレーし、特にデフランコのグループには3年間も在籍しています。ドライビング感抜群のピアノソロはこの頃から健在ですね。

ただ、私的に注目したいのはむしろタル・ファーロウの参加。デフランコとクラークの共演は「枯葉」「イン・ア・メロウ・ムード」など他の作品でも聴くことができますが、正直軽薄になりすぎるきらいがあります。ただ、本作はファーロウのギターが加わることによりアンサンブルに厚みが増しています。オープニングのゆったりしたブルース“Getting A Balance”は3人の名人芸が融合した名演と言えるでしょう。続く“That Old Black Magic”“They Say It's Wonderful”はどちらも超アップテンポな演奏。デフランコの自在なクラリネットとクラークのノリノリのピアノが最高です。バラードの“But Beautiful”では珍しいクラークのオルガンが聴けたりもします。デフランコと言えばカラフルな美女ジャケでもお馴染みですが、グリーンの色調に統一されたクールなジャケットも印象的です。

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エディ・コスタ/ガイス・アンド・ドールズ・ライク・ヴァイブス

2012-07-08 18:27:29 | ジャズ(クールジャズ)

本日は白人ジャズマン、エディ・コスタが1958年に録音した「ガイズ・アンド・ドールズ・ライク・ヴァイブス」を取り上げたいと思います。ジャズファンの間では昔から隠れ名盤として知られていますが、コーラルというマイナー・レーベルの作品だけあってなかなかゲットできませんでした。今回のJAZZ THE BESTお宝コレクションでめでたく再発売となり、喜び勇んで購入した次第です。



コスタは代表作「ハウス・オヴ・ブルー・ライツ」で知られるようにむしろピアニストとして有名ですが、本作ではもう一つの得意楽器であるヴァイブの演奏に専念しています。代わりにピアノを弾くのが当時まだ新進気鋭の若手に過ぎなかったビル・エヴァンス。この起用が結果的に大正解で、若きエヴァンスのフレッシュなプレイが作品のレベルを数段高めています。他のメンバーはベースがエリントン楽団でも活躍した名手ウェンデル・マーシャル、ドラムが後にエヴァンスと伝説のトリオを結成するポール・モティアンとなっています。

収録曲は全てフランク・レッサーが作曲を手掛けたミュージカル「ガイズ・アンド・ドールズ」からのナンバー。ミュージカル自体は今では全く無名ですが、収録曲の“If I Were A Bell”(マイルス・デイヴィスの演奏が特に有名)や“I've Never Been In Love Before”はスタンダード曲としてすっかり定着していますね。もちろん本盤でも両曲は演奏されており、特に後者のバラードとアップテンポを織り交ぜた演奏は秀逸です。ただ、私のベストトラックはオープニングの“Guys And Dolls”。エヴァンスのドライビング感抜群のソロに引っ張られるようにコスタも軽快なマレット捌きを披露する幸福感に満ちた名演です。ラストを締めくくる“I'll Know”の美しいバラード演奏も素晴らしい。エヴァンス特有のリリカルなスタイルはこの時点で既にできあがっています。たとえエディ・コスタのことはあまり知らなくても、エヴァンスが好きな人なら必聴の名盤と言えるのではないでしょうか?

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ソニー・スティット/サキソフォン・スプレマシー

2012-07-07 12:07:59 | ジャズ(ハードバップ)

本日はソニー・スティットが1959年に名門ヴァーヴに残した「サキソフォン・スプレマシー」を取り上げます。スティットはモダンジャズを代表する名アルト奏者ではあるものの、一方でどの時代のどの作品も演奏スタイルは同じなので個性に欠けるきらいがあります。特にこの時期の一連のヴァーヴ作品は、ピアノトリオをバックにスタンダード曲を軽く演奏するというスタイルばかりではっきり言ってどれを聴いても一緒です。



にもかかわらず、冒頭の“I Cover The Waterfront”が始まった瞬間に「ああやっぱりいいよなあ」と思わせるのがスティットの偉大さでしょうか。ルー・レヴィ(ピアノ)、リロイ・ヴィネガー(ベース)、メル・ルイス(ドラム)の西海岸リズムセクションのリラックスした演奏をバックに流れるお得意のテロテロフレーズ。いくらマンネリだとかワンパターンだとか言われても魅力的なことに変わりはありません。他ではゆったりしたブルース調の“Lazy Bones”、ミディアムテンポで上品な“Just Friends”もいいですね。“Two Bad Day Blues”“Blue Smile”の2曲はスティットのオリジナルですが、これもどこかで聴いたことあるような典型的ビバップです。スティットには珍しい美女ジャケも見た目に楽しい好盤です。

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