ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ズート・シムズ/クッキン!

2024-11-22 14:35:09 | ジャズ(ヨーロッパ)

本日はズート・シムズの英国ロンドンでのライヴ盤をご紹介します。1961年11月にフォンタナ・レコードに吹き込まれたもので、収録されたのは”ロニー・スコット・クラブ”。英国を代表するテナー奏者であるロニー・スコットがオーナーを務めるジャズクラブで、タビー・ヘイズの名盤「ダウン・イン・ザ・ヴィレッジ」と同じ場所です。共演メンバーはスタン・トレイシー(ピアノ)、ケニー・ナッパー(ベース)、ジャッキー・ドゥーガン(ドラム)。全員が地元イギリスのジャズマン達です。トレイシーやドゥーガンのことは良く知りませんが、ケニー・ナッパーは以前取り上げたジャズ・クーリアーズ「ザ・ラスト・ワード」にも参加していました。ジャケットのセンスはトホホって感じですが、一応「クッキン!」なのでお玉(レードル?)を腰にぶら下げているのでしょうか?60年代っぽいと言えばぽいですが・・・

ただ、内容の方は悪くないです。全6曲、うち5曲はスタンダードで、”Stompin' At The Savoy""Love For Sale""Somebody Loves Me""Gone With The Wind""Autumn Leaves”と言ったお馴染みの曲ばかり。並のジャズマンの手にかかればベタなマンネリの演奏になってしまうところですが、ズートの絶好調のプレイのおかげで聴き応えのある作品に仕上がっています。ズートのアドリブは決して原曲のメロディを大きく逸脱することなく、軽く崩しているだけのように聴こえるのですが、その崩しの加減が絶妙で、なおかつ彼特有のアーシーな「コク」のようなものが感じられます。共演陣ではスタン・トレイシーがパーカッシヴで意外と力強いピアノを、ジャッキー・ドゥーガンも”Somebody Loves Me”等で派手なドラミングを披露してくれます。なお、ラストの”Desperation”だけはオリジナル曲で英国を代表するトランぺッター、ジミー・デューカーの作。デューカーとクラブのオーナーであるロニー・スコットも参加しています。ロニー→デューカー→トレイシーが力強いソロを取った後、満を持してズートが貫録のソロで演奏を締めくくります。

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タル・ファーロウ/タル

2024-11-21 19:25:22 | ジャズ(クールジャズ)

本日は通好みのギタリスト、タル・ファーロウをご紹介します。私が普段愛聴するジャズギタリストはケニー・バレルやウェス・モンゴメリー、グラント・グリーン等黒人系が多いですが、スタイル的にはかなり異なります。かと言ってジム・ホールやバーニー・ケッセル等の白人ギタリストとも少し違うような気がするし、独特の演奏をする人ですよね。どう違うのか言語化は難しいのですが・・・

解説書によるとこの人は体系的な音楽教育を受けておらず、楽譜も一切読めなかったとか。元々はペンキ職人で看板を描く仕事でジャズクラブに出入りするうちにビバップの魅力に目覚め、チャーリー・クリスチャンを真似てギターを弾き始めたそうです。それでこれだけ弾けるようになるのだから大したもんですが、何でも手が人並外れて大きく普通の人は届かない弦まで指が伸びることにより、ワン&オンリーなスタイルを手にしたようです。ジャケットを見れば確かに大きい手にも見えなくもないですね。本作はそんなタルが1950年代半ばにヴァーヴに大量に残した作品の一つで、一般的に彼の代表作と目される1枚です。録音は1956年3月。エディ・コスタ(ピアノ)、ヴィニー・バーク(ベース)と組んだトリオ作品で、ドラムが抜けた異色の編成です。

全8曲。1曲だけクラーク・テリーのバップナンバー"Chuckles”が収録されていますが、他は全て有名スタンダード曲です。オープニングの”Isn't It Romantic?"、続く”There Is No Greater Love"あたりはいたって正統派の演奏で、タル、コスタ、バークの3人が一体となってリラックスした演奏が繰り広げられます。ただ、さすがにこれがずっと続くとダレて来ますよね。そこは彼らもわかっているのか中盤からはテンポを上げてアプローチの仕方を変えてきます。3曲目”How About You"あたりから徐々にペースを上げて行き、続く"Anything Goes""Yesterdays"ではタルが超絶技巧による高速ソロを繰り出し、エディ・コスタも低音がうねうねと続く独特のピアノソロを披露します。特に"Yesterdays"はコスタのピアノがちょっとおどろおどろしささえ感じさせるほどの異様な迫力で、白人らしい大人しいジャズを予想していると面食らうかもしれません。その後はペースダウンして、バラードの”You Don't Know What Love Is"、スインギーな”Broadway"で締めくくります。個人的な好みでは”Yesterdays"はちょっとアクが強すぎるので、”How About You"あたりがちょうど良いですね。

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ジョニー・グリフィンズ・スタジオ・ジャズ・パーティ

2024-11-20 18:56:51 | ジャズ(ハードバップ)

本日はジョニー・グリフィンの少し変わった作品をご紹介します。名付けて「ジョニー・グリフィンズ・スタジオ・ジャズ・パーティ」。ニューヨークのスタジオに知り合いを招き、MCを入れたパーティ形式で演奏したものです。スタジオ録音なのかライブ録音なのかどっちやねん!とツッコみたくなりますが、この頃(1960年)のグリフィンは以前「ザ・ケリー・ダンサーズ」で書いたように少し変わった試みを色々していたようなので、その一環でしょうか?

メンバーはデイヴ・バーンズ(トランペット)、ノーマン・シモンズ(ピアノ)、ヴィクター・スプロールズ(ベース)、ベン・ライリー(ドラム)と言った顔ぶれ。グリフィンのリヴァーサイド作品の中では比較的地味なメンツですが、デイヴ・バーンズはビバップ期から活躍する隠れた実力者ですし、ノーマン・シモンズもシカゴ時代からのグリフィンの旧知で、「ザ・リトル・ジャイアント」や「ビッグ・ソウル・バンド」にも楽曲を提供しています。MCを務めるのはバブス・ゴンザレス。ジャズシンガー兼作曲家、さらにジャズクラブのオーナーを務めるなどマルチな活躍をする人物だったようで、彼のおしゃべりもたっぷり収録されていますが、残念ながら何を言っているのかよくわかりません・・・

全6曲。ただし、1曲目"Party Time"はバブス・ゴンザレスのおしゃべりなのでスキップしましょう。続くタッド・ダメロンの名曲”Good Bait"が実質的なオープニングです。ジョン・コルトレーン「ソウルトレイン」の名演でも知られるこの曲ですが、グリフィンはよりソウルフルに迫ります。デイヴ・バーンズとノーマン・シモンズも好調なプレイぶり。歓声や拍手も入って演奏を盛り上げます。3曲目は定番スタンダード”There Will Never Be Another You"をバーンズ→シモンズ→グリフィンのソロ順でドライブ感たっぷりに料理します。

4曲目”Toe-Tappin'"はデイヴ・バーンズのオリジナル。実にファンキーな曲でバーンズのパワフルなソロの後、シモンズを挟んでグリフィンが怒涛のテナーソロを披露します。聴衆も興奮していますね。5曲目は一転して大人の哀愁漂うバラード”You've Changed"。バーンズとグリフィンがダンディズム溢れるバラードプレイで魅了してくれます。6曲目”Low Gravy"はバブス・ゴンザレス作となっていますが、どこかで聞いたことある曲。グリフィンも参加した「ブルース・フォー・ドラキュラ」によく似たマイナー調のファンキーチューンです。以上、グリフィンはもちろんのことデイヴ・バーンズ、ノーマン・シモンズの隠れた実力も知ることのできる1枚です。

 

 

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リロイ・ヴィネガー/リロイ・ウォークス

2024-11-19 19:47:58 | ジャズ(ハードバップ)

ウェストコーストジャズと言えば白人中心のジャズと言うのが一般的な認識かと思います。確かにパッと思い浮かぶのはアート・ペッパー、チェット・ベイカー、バド・シャンク、ショーティ・ロジャース、バーニー・ケッセルら白人ばかりですが、彼らを陰で支える黒人ジャズマンが多くいたことも忘れてはいけません。特にリズムセクションには黒人が多く、ピアノのカール・パーキンス、ドラムのローレンス・マラブル、フランク・バトラー、ベースのカーティス・カウンス、ベン・タッカー、ジミー・ボンド、そして今日ご紹介するリロイ・ヴィネガーがウェストコーストジャズの屋台骨を支えていました。

ヴィネガーはもともとインディアナ出身ですが、50年代に西海岸に移住し、ウォーキングベースの名手として多くのジャズ名盤に名を連ねています。代表的なものだけでもスタン・ゲッツ「ウェスト・コースト・ジャズ」、コンテ・カンドリ「ウェスト・コースト・ウェイラーズ」、デクスター・ゴードン「ダディ・プレイズ・ザ・ホーン」、アート・ペッパー「ザ・リターン・オヴ・アート・ペッパー」、シェリー・マン「マイ・フェア・レディ」、ベニー・カーター「ジャズ・ジャイアント」、ソニー・ロリンズ「コンテンポラリー・リーダーズ」等で、他にもまだまだあります。

本作はそんなヴィネガーのリーダー作として1957年にコンテンポラリー・レコードに吹き込まれた1枚です。2管編成にヴァイブを足したセクステットで、ジェラルド・ウィルソン(トランペット)、テディ・エドワーズ(テナー)、ヴィクター・フェルドマン(ヴァイブ)、カール・パーキンス(ピアノ)、ヴィネガー、トニー・バズリー(ドラム)と言うラインナップです。ヴィクター・フェルドマンのみ英国出身の白人ですが、他は全員ウェストコーストで活躍していた黒人で、特にハロルド・ランドと西海岸黒人テナーの双璧を成すテディ・エドワーズの参加が目を引きますね。ジェラルド・ウィルソンは後年アレンジャーとして大成し、パシフィック・ジャズに何枚もビッグバンド作品を残していますが、本盤はトランペッターとしての参加です。

全7曲、ウォーキングベースの名手ヴィネガーにあやかって、全てwalkにちなんだ曲が選ばれています。1曲目"Walk On"はヴィネガーのオリジナル曲で、ズンズンとリズムを刻むヴィネガーのベースをバックに、エドワーズのソウルフルなテナー、フェルドマンのクールなヴァイブ→ウィルソンのミュートトランペット→パーキンスのピアノソロとリレーして行きます。続く”Would You Like To Take A Walk?"は一転してハリー・ウォーレン作のバラード。トランペットとテナーは抜きで、フェルドマンのヴァイブとパーキンスのピアノで美しいメロディを紡いで行きます。3曲目"On The Sunny Side Of The Street"は厳密に言うと曲名にwalkは入っていませんが、streetなのでOKということでしょうか?お馴染みのスタンダードを快適なミディアムチューンに仕上げています。

後半(レコードのB面)はマイルスの名演で有名な"Walkin'"、ミディアム調のスタンダード”Walkin' My Baby Back Home"、ダイナ・ショアやナンシー・ウィルソンの名唱で知られるバラード"I'll Walk Alone"と続き、最後はスインギーな名曲"Walkin' By The River"を快調に演奏して締めくくります。

共演陣では何と言ってもテディ・エドワーズのソウルフルなテナーが素晴らしいですね。この人は西海岸を拠点にしていたため過小評価されていますが、同世代のジョニー・グリフィンに負けない実力の持ち主と思います。一方、ジェラルド・ウィルソンはマイルスを意識したのか全てミュートトランペットを吹いていますが、こちらは正直イマイチ。アレンジャーに転身したのは正解かもしれません。その他ではカール・パーキンスはいつもながら安定の仕事ぶりですし、ヴィクター・フェルドマンのヴァイブも良いアクセントになっています。リーダーのヴィネガーは"I'll Walk Alone"で多めにソロを取るぐらいで、それ以外ではことさら自分の技を見せつけるでもなくいつもと同じように堅実にリズムを刻んでいます。

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チェット・ベイカー・ビッグバンド

2024-11-18 19:14:08 | ジャズ(ビッグバンド)

前回のソニー・ロリンズに続き、今日はチェット・ベイカーの珍しいビッグバンド作品をご紹介します。パシフィック・ジャズ・レコードに1956年10月に吹き込まれた1枚で、時系列的には「チェット・ベイカー&クルー」の後、「ピクチャー・オヴ・ヒース」の前になります。50年代のチェットはパシフィック・ジャズやリヴァーサイドに多くの名盤を残しているため、その中で本作が挙げられることはまずないですが、個人的にはなかなか充実した出来と思います。

メンバーは大きく2つに分かれており、10月18日&19日のセッションが6管編成によるノネット(9重奏)で、チェット、ボブ・バージェス(トロンボーン)、フィル・アーソ&ボブ・グラーフ(テナー)、フレッド・ウォルターズ(アルト)、ビル・フード(バリトン)、ボビー・ティモンズ(ピアノ)、ジミー・ボンド(ベース)、ドラムは18日がピーター・リットマン、19日がジェイムズ・マッキーンです。

10月26日の方は8管編成で、トランペットにコンテ・カンドリとノーマン・フェイが加わり、フランク・ロソリーノ(トロンボーン)、アーソ&ビル・パーキンス(テナー)、アート・ペッパー&バド・シャンク(アルト)、ティモンズ(ピアノ)、ボンド(ベース)、ローレンス・マラブル(ドラム)です。メンバーだけ見ればこちらの方が西海岸オールスターと言う感じで豪華ですが、彼らはほぼアンサンブルに徹しており、アート・ペッパーやボビー・ティモンズが少しソロを取るくらいです。

全10曲ありますが、日付毎に紹介した方がわかりやすいですね。オープニングの"A Foggy Day"、7曲目"Darn That Dream"、ラストトラックの"Tenderly"が10月26日のセッション。アレンジを担当したのはジミー・ヒースです。ヒースはこの頃麻薬禍で演奏活動から遠ざかっていましたが、チェットの次作「ピクチャー・オヴ・ヒース」にも携わるなどこの時期チェットと関係が深かったようです。どの曲もお馴染みのスタンダードですが、ヒースのモダンなアレンジのお陰でなかなか聴き応えのある演奏に仕上がっています。主役はもちろんブリリアントなチェットのトランペットですが、”Tenderly"ではアート・ペッパーの華麗なアルトソロも聴けます。

10月18日&19日収録の残り7曲はどちらかと言うとオリジナル曲中心。中でもクリスチャン・シュヴァリエとピエール・ミシュロと言う2人のフランス人が作曲にアレンジにと大きく関わっています。うちミシュロはフランスを代表するベーシストとしてマイルス「死刑台のエレベーター」、デクスター・ゴードン「アワ・マン・イン・パリ」等で知られていますが、シュヴァリエの方はあまり聞いたことない名前ですね。なぜ、チェットの作品に彼らが関わっているのかよくわかりませんが、チェットは前年に8ヶ月間にわたるヨーロッパツアーを行いましたのでその時の縁でしょうか?2人が手掛けた曲は”Mythe"”Chet"”Not Too Slow"”V-Line"の4曲で中では"Mythe"がなかなか魅力的なメロディを持った佳曲です。それ以外は「チェット・ベイカー&クルー」にも収録されていたバラードの”Worrying The Life Out Of Me"、フィル・アーソ作のハードバピッシュな”Phil's Blues"、歌モノスタンダードの”Dinah"も収録されています。なお、こちらのセッションではチェットだけでなく、他のメンバーもソロを取る機会が多く、フィル・アーソやボビー・ティモンズと言ったチェットのレギュラークインテットのメンバーだけでなく、ボブ・バージェス、ボブ・グラーフ、フレッド・ウォルターズ、ビル・フードと言った正直あまり聞いたことのないジャズメン達のソロも楽しむことができます。

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