麒麟琳記〜敏腕Pの日々のつぶやき改題

還暦手前の身の回りのこまごま。
スポーツや映画演劇など。

長期休診

2025年02月14日 | 身辺雑記

平成30年といえば2018年だから

7年前になる。

 

平昌冬期五輪があって、

スピードスケート女子1000mで

小平奈緒が銀、髙木美帆が銅と

日本女子史上初めて

オリンピックでダブル表彰台

初といえば、高梨沙羅がジャンプで

初のメダル! まぁ五輪種目になり

まだ2大会目だったけれど

 

つい先日のスーパーボウルで

フィラデルフィア・イーグルスが

2度目の王者に輝いたが、

初優勝したのも2018年。

第52回スーパーボウルは

ミネソタ州USバンク・スタジアム。

AFCを制したペイトリオッツを

41対33で下した。

連覇の掛かるニューイングランドが

有利との戦前予想を覆した。

 

 

高層マンションに目が行くだろうが、

手前の一軒家が主人公だ。

池袋のとある裏通り。

 

昔ながらの、頭が禿げ上がった

丸眼鏡の温厚なおじいちゃん先生が

夏でも濃紺のカーディガンを羽織った

ベテラン看護婦(あえてそう呼びたい)

と二人でやっていそうな

小さな病院があって。

 

 

それが平成30年4月から

長期休診なのである。

家から近いけれど、

お世話になったことはない。

たまさか通りすがって、

そういえば長らく閉まってるな〜と

近寄って貼紙を見てみたら、平成云々。

 

「受かったのか?」

鋭機が確認すると諄機は黙って頷いた。

鋭機は胸を撫で下ろし携帯に手を伸ばす。

「尾形です。医院売るのは辞めます。

……えぇ、おかげさまで何とか入りました」

 

孫が三浪の末にようやく医大に。

長男を幼くして亡くし、

次男は留学先のドイツで唐突に

医道を捨て人形劇の、

しかも人形の作り手に転じて

今はチェコに暮らしている。

その一姫二太郎の諄機は

電話の間に食卓を離れていた。

 

姉の知鋭子もチェコにいる。

彼女は日本の土を余り踏んでおらず

日本語もそれほど得意ではない。

諄機は小学校から単身島国に来て

祖父母に育てられた。

彼の部屋の窓辺には父の作った木製の、

ムフロン(チェコ山岳の羊の一種)と

汎スラブ色の服を着た少年

(恐らく愛する長男に似せた)が

揺れている。

 

そうして古びた開業医の玄関には

「休診」の紙が貼られた。

 

月日は流れて

諄機は無事に研修医となった。

安心したのか鋭機は旅立ち、

傷心の祖母実知子は施設に入った。

 

居間のビジネスフォンから

「もしもし父さん? おはよう」

「おはよう。……って日本は夕方か?」

「そう。今日もいい天気だよ」

高層マンションに囲まれた戸建てにも

陽の光は届いている。

「近々そっちに行こうと思うんだ」

 

あいかわらず諄機の窓辺には

ムフロンと少年……

その隣にウサギだろうか

明らかに拙い人形が加わった。

机の上にはパソコンと医学書と、

真新しい彫刻刀。

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