映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

シルク

2008年02月09日 | 映画(さ行)

この映画は、欧米から見たエキゾチックで神秘的な東洋への憧れ、
その募る思いを映画化した、と理解してよいのではないでしょうか。
だから、そこに描かれている日本は、本当の日本ではないのです。

舞台は19世紀。フランス。
裕福な家の青年エルヴェは一目ぼれした女性エレーヌと結婚。
そこは製糸工場で成り立っている街で、おりしも疫病で、蚕が壊滅状態。
エルヴェは日本で蚕の卵を入手する特命を受け、一人はるかな旅に出ます。
ヨーロッパからみると、日本は気の遠くなる東の果て。
命がけの旅であるわけです。

まだ鎖国下の日本。
陸路でロシアを経由し、船で密かに山形は酒田に上陸。
そこからまた山奥へとたどり、やっとついた小さな村。
・・・このあたりの風景がとても日本の東北とは思えない風景なので、まず違和感なんですが・・・。
ご禁制の密貿易ですから、よそに知れても大変なことになる。
その村の実力者の若く美しい妻に、エルヴェは魅入られてしまうのです。
言葉を交わすでもない。
しぐさ、まなざしに魂を吸い取られるような・・・。
神秘的な魔性の女・・・?

違和感ですよねえ。
江戸時代の山形といえば、たそがれ清兵衛。
あの映画の登場人物たちの朴訥としたあったかさ。
日本人ならそういうイメージを抱くところです。
宮沢りえ演じた彼女のような、おきゃんで世話好きであったかい、そんな女性がいる方がイメージとしては自然。
得体の知れないバテレンに、色目を使う女などいるわけもなし。
まあ、しかし、それでは映画になりませんからねえ・・・。

すっかり魂を奪われてしまったエルヴェは、よせばいいのに蚕の卵にかこつけて日本に通うこと2度3度・・・。
しかし三度目は幕末。
政情不安の日本で、もう彼女に会うこともかなわない。
彼は彼女からたった一度もらった恋文を大切にするのですが、実はその手紙は・・・。

最後に驚きの結末が用意されていまして、
ずっと日陰のような存在の妻エレーヌの大きな愛に、驚かされることになります。
おいおい、卑しくもキーラ・ナイトレイなんですから。
どう見ても、彼女の方がよろしいでしょう。

日本人としては、欧米人の日本観と実際の日本、
そのギャップを楽しむというのが、この映画の見方であります。
映像はこのように大変美しいです。

2007年/カナダ、フランス、イタリア、イギリス、日本/112分
監督:フランソワ・ジラール
出演:マイケル・ピット、キーラ・ナイトレイ、役所広司、芦名 星、中谷美紀

「シルク 公式サイト」