![]() |
つみきのいえ (pieces of love Vol.1) [DVD] 東宝 このアイテムの詳細を見る |
思い出の階層
* * * * * * *
アカデミー賞受賞決定の日に、購入申し込みをしたのですが、やっと届きました。
1人のおじいさんが、海の上の家にたった一人で住んでいます。
ある朝起きてみると、部屋中水浸し。
海水の水位が上ってきたのです。
おじいさんはレンガで、屋上に新しい家を造ります。
こうして、これまで何度も、上へ上へと家を継ぎ足してきたことがわかってきます。
あるときおじいさんは、これまで住んでいた水没した部屋へ行ってみるのですが・・・。
家を一つ一つ降りていくうちにその頃の思い出が浮かんでくる。
ここに住んでいた頃にはこんなことがあって・・・
その下の時にはあんなことが・・・
こうしてみるとこの家は、おじいさんの人生そのもの。
いわば思い出の階層。
階を下るごとに、若い時代に還っていくのです。
ほとんどの人生を共にした今は亡きおばあさん。
今はもう消え去ったその頃の幸せ。
たった一人の切なさと、今はもうないものへ向けた郷愁が漂います。
わずか12分という作品ですが、なんと多くのことを語っていることか。
結局私たちは、おじいさんの一生を見ることになるのですから。
そもそも、何でこんなふうに町が水没してしまったのか、
そういうことには一切触れていません。
おそらく、地球温暖化・・・そのようなことが頭をかすめるのですが、
だからといって、この作品がエコロジーを主題としているわけでもありません。
でも、この世界観は、実にいろいろなことを私たちに想像させてくれます。
おじいさん以外の人たちは、
かなり頑張って同じように家を継ぎ足して暮らしていたようですが、
耐え切れず、よその地面のある土地へ行ってしまったようです。
夜、明かりのある家が近くにはないんです。
でも、だから無人島に住んでいるようなものかといえば、そうでもない。
行商の船がよく立ち寄るんですね。
レンガも買わなければならないし、食料品、日用品、
必要なものはいくらでもある。
このような行商船があるということは、
多分他にも同様の暮らしをしている人はまだ残っていて、
ところによっては、
一家で楽しく賑やかに魚を採りながら暮らしている家もあるのかもしれない。
いつも波音が聞こえて、自分の家で釣りができる。
毎夕、ワインを一杯。
こんな暮らしも、悪くはないかもしれません。
たぶん、娘さん一家は遠くの土地で元気なんでしょうね。
年に何度か訪ねてきては
「お父さん、もういい加減こんな不便なところは引き上げて一緒に暮らしましょう」
といつも言っている。
でも、頑固なおじいさんは、
おばあさんの思い出いっぱいのこの家を出ようとしないんです。
…そんなドラマまで思い浮かべてしまいました。
DVDには、ナレーションのないものと、
ナレーション入りのもの、二つのバージョンが納められています。
ナレーションがないもので十分ですね。
こちらの方が万国共通、イマジネーションが広がります。
でも、立て続けに見ても、やはり泣けてしまいました。
私のお気に入りDVDの一つとなりそうです。
2008年/日本/12分
監督:加藤久仁生