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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「町長選挙」 奥田英朗

2009年03月26日 | 本(その他)
町長選挙 (文春文庫)
奥田 英朗
文藝春秋

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伊良部医師のシリーズ第3弾です。
この本には4つの短篇が収められています。

◆日本一の発行部数を誇る「大日本新聞」の代表取締役会長であり、
また、プロ野球・中央リーグの人気球団「東京グレート・パワーズ」のオーナー、
田辺満雄。

◆インターネットによるホームページ作成サービスの会社から、
どんどんと急成長し、
IT業界のみならず経済界全体からも注目を浴びるライブファストの若き社長、
アンポンマンこと安保貴明。

◆東京歌劇団出身、すでにベテランながら、
若々しい美貌とスタイルを保ち続け、
人気を集めているカリスマ女優、白木カオル。

どれも、実在の誰かを彷彿とさせますが、
それぞれが、過度なストレスを抱え込んで、
次第に異常な行動を示し始めるのです。
それが、どう間違ったか、伊良部のところへ来てしまう。
例によって、強引にブドウ糖の注射をするだけなのですが・・・。
こんな生意気でバカみたいな医者に二度とかかるもんかと思いながら、
なぜかフラフラとまた来てしまう。

思うに、あまりにも傍若無人な伊良部の言動が、
逆に彼らの緊張感をなくし、
本音を引き出すことに成功しているのかもしれません。
ともあれ、それぞれの業界の重鎮でありカリスマである彼らが、
伊良部に振り回されつつも自己を回復していく、
非常に楽しめる作品群となっています。


さて、そこへ来て、趣が異なるのが、
表題でもある「町長選挙」。
この舞台は東京都下でありながらも、離島の千寿島。
そこではおりしも、町長選挙の真っ最中。
そこへ伊良部が派遣医師として、看護師マユミと共に赴任してくるのです。
2ヶ月限定ではありますが。
この島は古くから派閥が真っ二つに分かれていて、
選挙のたびに島を二分する大騒ぎ。
贈収賄なんか当たり前・・・。
伊良部を味方に引き入れて、
特別養護老人ホーム建設の政策を打ちたてようと、
両陣営から矢の催促。
ほとんどお祭り騒ぎのような選挙戦に、
初めのうちは面白がっていた伊良部。
しかし、両陣営、
実のところ、この見放されたような島をなんとかしようと、止むに止まれず
・・・という真剣さが見えてきたところで、急に、怖気づき
「だって、重いんだもん。人の運命なんて左右したくないよォ」
と引きこもってしまう。

つまり、この方は、本当に子どもなんですね。
気持ちが子どものまま中年オヤジになってしまった。
実は、バカのようで、バカのフリしてるだけなのかも
・・・と思わせるところもあるのですが、
決してそうではないようです。
その無心さが、たまたまラッキーを呼ぶのでしょう。多分。

この話を読むと、周りの皆さんが実に大人に思えます。
分別をわきまえた、良い大人にならなくては・・・と、ひそかに思ってしまいました!

満足度★★★★☆