映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「愛おしい骨」 キャロル・オコンネル

2011年01月05日 | 本(ミステリ)
20年の沈黙の後、また時を刻み始めた事件の謎

愛おしい骨 (創元推理文庫)
務台 夏子
東京創元社


          * * * * * * * *

しばらく戦国時代末期~江戸時代初期当たりを旅している内に、
翻訳物の本がたまってしまいました。
私が読む洋物は、非常に限られているのですが、
キャロル・オコンネル、
サラ・パレッキー、
パトリシア・コーンウェル、
サラ・ウォーターズ・・・
何故かどっと新刊が出てしまっていました。

まずは、20011年版「このミステリーがすごい!」海外編第1位に輝いた、
「愛おしい骨」と行きましょう。
この著者は、あの名著「クリスマスに少女は還る」を書いた方です。
すごく好きだったんですよ・・・、あの驚愕のラスト。


さて、この物語は・・・
17歳の兄オーレンと15歳弟ジョシュア。
二人は森へ行き、戻ってきたのは兄一人。
弟は行方不明のまま・・・。
オーレンはその後家を出るのですが、20年の後、帰郷します。
20年止まったままだった事件が、また時を刻み始める。
誰かが、玄関先に死んだ弟の骨を一つずつ置いてゆく。
その意図は。その犯人は・・・?
登場人物が実に個性的で、わくわくします。


まずはこのオーレン。
イケメンです!
合衆国陸軍犯罪捜査部下級准将という、すごい肩書きの持ち主だったのですが
ある日突然退職してしまった。
その理由ははっきりとは記されていませんが、
あまりにも見るべきでないものを見てしまった・・・そのように推察されます。
ジョシュアとは非常に仲の良い兄弟だったのですが、
実は彼自身も容疑者の一人。
しかし、そのとき彼のアリバイを申し立てた女性が二人。
それぞれが二人で一緒にいたというのでは、かえって疑いを招きますね・・・。

オーレンの父は元判事の、ホッブズ氏。
彼はお手伝いのハンナと共に、家を守っていました。
このハンナは彼ら兄弟の母親が亡くなった時にやって来て、
以来このホッブズ家を支える重要な人物。
温かくて世話好きで、機転が利く魅力ある人物。
しかし彼女の出自を誰も知らない。
IDがないので運転免許も持てない・・・というらしいのです。
一体この人はナニモノ?というのも興味の一つ。

イブリン・ストラウブというのは、ホテルの女主人ですが、
彼女は昔セクシーな夫人で、当時17歳オーレンのいい人・・・。
しかし、20年後の彼女は見事に肥え太り、見る影がない・・・。

私が最も好きなのは、イザベル・ウィンストン。
オーレンとは幼なじみなのですが、実は顔見知りというだけで会話を交わしたこともない。
しかし、何故か20年ぶりに会ったオーレンを突然蹴り倒すのですよ!
過去に何かあったらしいのですが・・・、
この辺の謎が実は私には一番面白かった・・・。
愛憎たっぷりのこの二人の成り行き、ここだけでも充分楽しめます。
オーレンは蹴り倒されても戸惑うばかりで怒ったりしない。
ヨロヨロと立ち上がってまた歩き始める
・・・なんてところが実に興味深いではありませんか!

さらには このイザベルの母、セアラ・ウィンストン。
非常に美しく上品な夫人。
しかし、何故かアルコール中毒。
この症状はジョシュアの失踪後からのようなのですが。
彼女をやさしく見守るかのように見える夫、アディソン・ウィンストンは弁護士。

そして、元警官で、昔の事故が原因で足が不自由なウィリアム・スワン。

オーレンとは幼なじみだけれど仲が悪かった、現在副保安官のデイブ・ハーディ。

その母、街の図書館の怪女メイヴィス・ハーディ・・・等々・・・。

これらの人々が絡まり合って織りなす謎を、オーレンが紐解いていきます。
ホッブズ家には
「決まり切った質問をしてはいけない」
という不文律があるようなのです。
だからオーレンは父親にさえも、ストレートな疑問を口にすることが出来ない。
非常に婉曲な言い方で、腹の底を探り合ったりします。
もどかしいのですが、この会話のやりとりが何ともユーモラスであり、
またアメリカ的ですね。
親子であっても個人的なことには立ち入らない、
というような根源的なあり方が見え隠れします。
こういう調子の会話は、日本のモノではないですが、私は好きですね。

さあ、結局弟を殺したのは誰?

満足度★★★★