映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

父親たちの星条旗

2011年01月27日 | クリント・イーストウッド
自分たちはヒーローなんかじゃない



            * * * * * * * *

太平洋戦争の最激戦地である硫黄島。
その戦闘を日米双方の視点で描こうとするクリント・イーストウッド2部作の内の第一作です。

あれ、クリント・イーストウッドはもう終わったんじゃなかったっけ?
それがですね、確かに、既に見た作品なので、
てっきりブログに載せたと思い込んでいたのですが、
実はこれを見たのはこのブログを始めるほんの少し前で、記事にはしていなかったんです。
それでまあ遅まきながら、この度またきちんと見まして、穴埋めをしているわけ・・・。
うん、この作品は見るの2度目だけれど、やっぱり胸に迫るモノがあるよね。
ただ戦争で人が大勢亡くなって、悲しいとか、むなしいというだけではなくて、
生き残った人がずっと持ち続けた心の傷が・・・ね。


まずは、冒頭のこの写真。
当時、この写真がアメリカの新聞で紹介されて話題になったんだね。
確かに何か訴えるモノがあるよ。
戦地で兵士たちがこうして力を合わせて必死で闘って勝利したんだ・・・というような。
実際にはまだ戦闘の始めの頃の写真なんだね。
当初アメリカは4日もあればカタがつくと思っていた。
でも実際は1ヶ月以上も激しい戦いが続いたんだ。
で、この旗は見ての通り6人で立てているけれど、生き残ったのは3人だけ。
それで、政府がこの写真に目をつけたんだ。これは使えるぞ!と。
当時アメリカでも戦費の捻出に苦労していたんだ。
そうなのか・・・、その頃日本でもモノが無くて、
皆飢えていたし、鍋や釜など家庭の鉄製品まで供出していたとは良く聞くけどね。
アメリカは戦時中でもモノが豊かだと思っていたよ・・・。
庶民の暮らしは、日本よりはよほどましだったろうとは思えるけどね。
国家予算としては大変だったのでしょう。
そこで、費用をかき集めるために、軍事国債を売り出したんだけれど、
そのPR要員にかり出されたのが、この旗を揚げた3人というわけだ。
彼らは一躍ヒーローに祭り上げられる。
イーストウッド監督も、当時まだ子供だったけれど、
この写真を見たことを覚えている、と語っているよ・・・。
ほう、さすが年季の入った監督!!
さて、でも彼ら自身が本当のことを一番よく知っている。
自分たちはたまたま写真に写ってしまっただけ。
多くの仲間は死んで、悲惨な現場もみたし、敵兵も殺した・・・。
自分たちはヒーローなんかじゃない。
忘れてしまいたいのに、作り物の岩塊上に旗を立てるシーンまで
ショーとして再現させられたりする。
いまでこそPTSDという概念は広くあるけれど・・・。
当時はそんなことお構いなしだったんだろうね。
この三人の一人が衛生兵のドクで、
彼はまあ、その後普通に年老いてから亡くなったんだけれど、
その悲惨な島での体験は、家族にも語ることはなかったらしい。
でも、ご本人が亡くなった後で息子さんが調べて本にしたんだね。
それがこの映画の原作ということなんだ。
ドクは「衛生兵・・! 衛生兵・・・!」と誰かが遠くで自分を呼んでいるような気がするんだ。
帰還した直後も、また、数十年を経た死の間際でさえも。
うん、ここの演出はすごくいいと思う。
この作品では、硫黄島の戦闘シーンはほとんどモノクロに近いくらい、色調を落としているね。
そう。いかにも殺伐としたシーンにふさわしい。
それから、現れる日本兵の姿が、極端に少ない。
実際、地下道を掘って潜んでいたらしいのだけれど。
だから、どこにいるんだか、どこから襲ってくるのだか、解らないから不気味で怖い。
そういう風に描かれている。
なるほど・・・。
しかしその日本兵の実体は・・・。
ということで、「硫黄島からの手紙」に続きまーす!

父親たちの星条旗 (特別版) [DVD]
クリント・イーストウッド,ポール・ハギス,ウィリアムス・ブロイルズ・Jr
ワーナー・ホーム・ビデオ


「父親たちの星条旗」
2006年/アメリカ/132分
監督:クリント・イーストウッド
出演:ライアン・フィリップ、ジェシー・ブラッドフォード、アダム・ビーチ、バリー・ペッパー、ジョン・ベンジャミン・ヒッキー