映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

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2012年04月17日 | 映画(あ行)
古きを訪ねて新しきを・・・



                   * * * * * * * * * *

第84回アカデミー賞作品賞・監督賞等5部門受賞作。
モノクロにして無声といういかにも地味な作りでありながら、
映画というものの原点、そして映画の楽しみの原点を思い起こさせる作品です。


舞台は1927年ハリウッド。
当時まだ無声映画しかなかったわけですが、
ナマのオーケストラ演奏があったりして、これはこれで結構贅沢ですよね。
映画の入場料はいかほどだったのでしょう?
スター俳優ジョージ・バレンタインが、
駆け出しの女優ペピー・ミラーを見初めてスターへと導きます。
しかし、ちょうど映画産業は無声映画から音声の入ったトーキーへと移行していきます。
無声映画に固執し続けるジョージは次第に落ちぶれ、忘れ去られていくのですが、
一方ペピーはトーキー映画でスターダムへと駆け上がっていく。
けれど、ペピーの胸中にはジョージが・・・。
ジョージのタキシードの袖に自らの腕を通して愛撫するペピーのシーンがとても素敵でした。
(でもこのシーンは、過去の無声映画の再現だそうで・・・。)



舞台も手法も古典的ではありますが、
このドラマのシチュエーションは多分に今日的と思えます。
というのも、ジョージはプライドばかり高くて、自らの窮地から立ち上がれない。
女性を守る“ナイト” や“ヒーロー”からは程遠いですね。
しかるにヒロイン、ペピーは、
明るくたくましく意欲的で、行動的。
まさに現代女性。
まさしく、今元気なのは女性とお年寄り。
そうそう、そして犬も!!
ジョージの運転手氏も、ちゃんと自分の新たな生きる道を見つけましたしね!
ペピー、運転手、愛犬。
ジョージはこんなに暖かい目に見守られているのに、全く不甲斐ないことで・・・。



それにしても、服装や髪型だけで、随分時代の雰囲気が出せるものですよね。
ジャン・デュジャルダンは、ちょっとクラーク・ゲーブルの雰囲気にも似ています。
ベレニス・ベジョのまばゆいくらいに活き活きした可愛らしさにも魅了されます。
なぜかその場のキラキラ感は、下手なカラー作品よりよほど印象深い。
そして、やっぱり私としてはジャックラッセルテリアのワンちゃんに花丸。
健気な犬ですよねえ・・・。
こんな犬と暮らしたい・・・。


この作品、最後の最後に初めて人の声や音が入るんですよ。
それは、ついにジョージもトーキーを認め、受け入れたと、そういう意味があると思いました。


今作は声が入らないから、余計に一生懸命画面に見入ってしまいます。
CGや3D。
映画の技術は比べ物にならないくらい進歩したけれども、
映画の面白さとそれは別物ということです。
時には紙芝居並みの画面からでも私たちは多くの感情を引き出されることがある。
今後もますます様々な表現が混在するようになる。
それはそれでいいのではないかなあと思う次第。


それにしてもです。
春の休日、日中。
アカデミー作品賞受賞作にして、この上映館はガラガラでした・・・。
そこまで地味ですかね? 
映画ファンとしてはちょっぴり寂しい気がしてしまいました。


「アーティスト」
2011年/フランス/101分
監督・脚本:ミシェル・アザナビシウス
出演:ジャン・デュジャルダン、ベレニス・ベジョ、ジョン・グッドマン、ジェームズ・クロムウェル