映画と本の『たんぽぽ館』

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「張り込み姫 君たちに明日はない3」 垣根涼介

2012年04月30日 | 本(その他)
“リストラ”イコール“クビ”ではなくて

張り込み姫: 君たちに明日はない3 (新潮文庫)
垣根 涼介
新潮社


                   * * * * * * * * * 

リストラ面接官村上真介、「君たちに明日はない」シリーズ第3弾です。
リストラ請負業という真に今日的な仕事を勤める村上真介。
企業の方針に従い、人員削減に向けて多くの社員に面接し、
退職をすすめるという、嫌な立場の仕事です。
時には憎まれて、お茶を引っ掛けられたりもする・・・。
しかし、です。
彼の人間観察はなかなか鋭くて、
対象者の色々な仕事に対する思いを探るのはなかなか楽しいのです。
この本には4篇が収められていますが、その中の一つ。


「みんなの力」
自動車ディーラーのメカニックを勤める宅間がターゲットです。
さて、とても気に入った話なので取り上げたのはいいのですが、
考えてみると私、ここに出てくる用語がちんぷんかんぷん。
クルマのことなど何もわからない私。
変なこと書いていましたら、お許しを・・・。
宅間は、とにかくクルマが好きで大事なのです。
だから修理の依頼などにも非常に丁寧で責任を持った対応をします。
そのため、個人的に彼を指名してくる客も多い。
けれど、会社にとってはそれは余計なこと、というのです。
修理内容の相談はフロントに任せて、ただ言われた通りのことだけすればいい、と。
けれど、宅間はじっくりお客と向き合って、
予算や安全性、耐久性などを相談したい。
でも現実は、そこまでクルマにこだわりを持つ人はほんのひとにぎりで、
大多数はクルマなどただ走ればいいと思っているという現実も見え隠れ。
このまま無理に会社に残っても、不本意な仕事しかできそうにない。
いっそ自分で工場を持ちたいけれども、そんなお金はどこにもない・・・。
そんなとき、これまで宅間にお世話になっていたクルマ好きのみんなが立ち上がる。
まあ、彼らにとって、宅間が仕事をやめてしまうと非常に困るというのが一番の理由ではあるのですが。
これも、みんなでお金を出し合う、なんてことではなくて、
格安の物件を探したり、資金計画を立てたり、と、
彼らの出来る範囲での協力というのが、気持ちいいのです。
必ずしも自分の好きなことを仕事にするのがいいとは言えないかも知れないけれど、
でも羨ましく思います。
仕事に情熱をかけられて、人の輪も生まれて。
そんなやりがいのある仕事につけたら、幸せですよね・・・。


さて、これらのことは、実は真介のあずかり知らない所で進行するのですが、そういうのもユニークです。
リストラとは決して「首切り」の意味ではない。
「再構築」が元々の意味ですよね。
人生の再構築。
仕事の意味の再構築。
その岐路を描くこのストーリーは、だから面白い。


今作は真介の年上の彼女、陽子さんの出番がやや少なかったのが残念でした!


→「君たちに明日はない」


君たちに明日はない (新潮文庫)
垣根 涼介
新潮社


→「借金取りの王子 君たちに明日はない2」


借金取りの王子―君たちに明日はない〈2〉 (新潮文庫)
垣根 涼介
新潮社


「張り込み姫 君たちに明日はない3」垣根涼介 新潮文庫

満足度★★★★☆