映画と本の『たんぽぽ館』

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アリス・クリードの失踪

2012年04月29日 | 映画(あ行)
“愛”の不思議さ、不確かさ



                     * * * * * * * * * *

冒頭、二人の男が黙々と何かの準備を始めます。
工具や備品を調達し、ある部屋を改装。
何やら犯罪の臭いがします。
会話はないまま、二人は一人の女性を拉致。
その部屋に運び込み、猿ぐつわをした上ベッドにくくりつける。

クールで無駄のない、計画的犯行。
その手口はプロの技と思えます。
さて、その女性アリス・クリードをベッドにくくりつけ、監禁し、
裕福な父親に初めのコンタクトを取って一息ついたところから、
ようやく二人の会話が始まります。



中年で指図をしている方がヴィック。
若いほうがダニー。
ここまでは冷静沈着に見えたのですが、それなりの緊張感が見て取れます。
やがて、ダニーとアリスが実は恋人関係にあったということがわかるのですが・・・。
登場人物は最後までこの3人だけ。
そして、舞台もこの監禁部屋の他に2ヶ所ほどしかありません。
ストーリーは、単なる誘拐劇ではなく、
この3者の心理サスペンスへと様相を変えていきます。
特に、ダニーの真実はどこにあるのか。
先が読めなくて全く目が離せません。



この作品、犯罪が成功すればいいとか、
アリスが無事解放されればいいとか、
そういう感情は全然起きないのです。
この三人の誰にも特に感情移入もできないし、犯罪を憎む気も起こらない。
にもかかわらず、です。
どうしてこんなにも気になって目が離せなくなってしまうのか。
全く不思議な作品です。
そこには「愛」があるのですが、
けれどこの「愛」というものの不思議さ。不確かさ。
自分でもよくわからないし、心と実際の行動は必ずしも一致しない。
この極限状態で、これらがくっきりと浮き彫りになります。
これこそがリアルな「愛」のストーリーなのかも知れません。



ラストでアッと思うのは、この作品名。
「アリス・クリードの誘拐」ではなく、
「アリス・クリードの失踪」なのですね。
なるほど。納得、納得。

「アリス・クリードの失踪」
2009年/イギリス/101分
監督:J・グレイクソン
出演:ジェマ・アータートン、エディ・マーサン、マーティン・コムストン