映画と本の『たんぽぽ館』

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「完全なる首長竜の日」 乾緑郎

2013年07月12日 | 本(その他)
現実と幻想、境界の危うさ

【映画化】完全なる首長竜の日 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
乾 緑郎
宝島社



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選考委員が即決した『このミス』大賞受賞作!
テレビ・雑誌各誌で話題、
その筆力を絶賛された大型新人のデビュー作、
待望の文庫化です。
少女漫画家の和淳美は、植物状態の人間と対話できる
「SCインターフェース」を通じて、
意識不明の弟と対話を続けるが、
淳美に自殺の原因を話さない。
ある日、謎の女性が弟に接触したことから、
少しずつ現実が歪みはじめる。
映画「インセプション」を超える面白さと絶賛された、謎と仕掛けに満ちた物語。


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本作は、映画が気になっていましたが、
どうも観る時間をとれそうにないので、本を読むことにしました。
SF的に、昏睡状態の人と対話できるという
「SCインターフェース」というテクノロジーが登場します。
自分が現実と思っていることが全て、
実は夢の中のことかもしれないといった幻惑に満ちたストーリー、
プロットも優れていて、
とても新人とは思えない力量を感じました。


私が唸ってしまったのは、首長竜の模型を砂の中から掘り出すシーン。

「手の平の上に載せてみると、小さいが、かなりの重量感がある。
真鍮か何かだろうが、重さからすると、中は空洞ではなくて、
芯まで金属が詰まっているような感じだ。鋳物だろうか。」


・・・ちょっと待って、
この文章、前にも一度読んだような・・・。
一体どこでこの首長竜の模型が登場したのだったっけ・・・? 
まるでこちらの記憶まで幻惑されるような危うい気分にさせられます。
登場人物たちの不確かな現実感が、
まるで乗り移ったような、不思議な感覚でした。
また、作中何度も繰り返される、
赤い布とともに波にさらわれるイメージ。
きっとここに何かのヒントがあるに違いないと気付きはしますが・・・。
実に効果的なイメージとなっています。
窓の外を泳ぐ首長竜によって
ある一つの意識が打ち破られていく、
というシーンも美しく劇的。
「このミス」大賞選考委員4名が満場一致で大賞決定した
というのも納得の秀作です。


さて、ところで映画の方のあらすじを見てみたら、
かなり設定が変えられているようです。
こちら原作は昏睡状態なのは弟で、
それを見守っているのは姉。
でも映画は姉弟ではなくて幼なじみの恋人同士。
昏睡状態にあるのは女性の方。
ここまで変えられたら、著者も面白くはないでしょうと思ったりしますが・・・・。


意識のない人との会話。
そして現実と脳の創りだす幻想、
その境界の危うさ
というテーマが生きてさえいればいいと、
割り切るしかないでしょうか。


「完全なる首長竜の日」乾緑郎 宝島社文庫
満足度★★★★☆