映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

さよなら渓谷

2013年07月20日 | 映画(さ行)
幸せにならないように生きてきた



* * * * * * * * * *

吉田修一作品の映画化。
思うに彼の小説は映画向きですよね。
犯罪を描きながら、それは特別の人のことではなく、
ごく身近でふとした拍子におこってしまうこと。
そういう人の心のあやうさ、不可思議さを描くことが多いので。



本作では実の母親による幼児殺害事件がまず取り上げられます。
けれど、それはこの場合、単に一つの道具立てでしかない。
その隣家に住む尾崎(大西信満)と、
その内縁の妻・かなこ(真木よう子)に焦点が当たります。
かなこは警察に
「夫と隣の主婦が不倫関係にあった」
と通報したのです。
尾崎は取り調べのために連行されますが、
なにも語らず、しかし、ついには不倫関係を認めてしまいます。
この事件を調べていた週刊誌記者の渡辺は、
尾崎とかなこの間にあった15年前のある事件を知りますが・・・。



作品は、ひたすら寡黙で何気なさを装い、肝心なことは絶対に口にはしないという
謎めいた夫婦の生活を映し続けます。
渡辺が探りだした真実は驚愕に値しますが、
それでもなんだか納得できてしまうのですね。

愛なのか。
憎しみなのか。

一言では語れない感情の複雑さ。
真木よう子恐るべし。
そういうところを実に納得できる形で私達に見せてくれます。



彼らの夫婦の営みは、
いつも妻からの「しよ」という誘いの言葉から始まります。
その意味は後からわかってきます。
そしてそれがまたなかなか激しいのは、
そうしている間だけ、過去を忘れてただの男と女でいられるから。
・・・と、そんなふうに思いました。


「幸せにならないように」二人で生きてきたというこの男女。
う~ん、深いですね。



この渓谷のように深い、と言いたいところですが、
実はさほど奥深い山の渓谷ではなかったですが・・・。
わりと都会に近いひなびた田舎町。
そういう背景はステキでした。
見応えたっぷりの作品。
真木よう子にやられました。



「さよなら渓谷」
監督・脚本:大森立嗣
原作:吉田修一
出演:真木よう子、大西信満、鈴木杏、井浦新、新井浩文、大森南朋

人の心の不思議★★★★★
満足度★★★★☆