映画と本の『たんぽぽ館』

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「永遠の0」 百田尚樹

2013年08月15日 | 本(その他)
凛々しく飛び立っていった青年たち

永遠の0 (講談社文庫)
百田 尚樹
講談社


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「娘に会うまでは死ねない、妻との約束を守るために」。
そう言い続けた男は、なぜ自ら零戦に乗り命を落としたのか。
終戦から60年目の夏、健太郎は死んだ祖父の生涯を調べていた。
天才だが臆病者。
想像と違う人物像に戸惑いつつも、1つの謎が浮かんでくる――。
記憶の断片が揃う時、明らかになる真実とは。

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本屋大賞受賞作にして、この12月に映画公開となる作品です。
以前から書店の店頭で大々的に売り出していて気になっており、
この夏やっと読むことができました。
はからずも、本作は
戦争の記憶を呼び起こすこの8月に読むにふさわしい作品でした。


題名の0(ゼロ)は、零式戦闘機
すなわちゼロ戦のゼロを表しています。
ゼロ戦といえば今夏公開中の「風立ちぬ」が
ゼロ戦の設計者堀越二郎を主人公としていますが、
当時米国人も驚くすばらしい性能を備えた飛行機だったわけですね。


今作では健太郎が「祖父は特攻で亡くなった」と聞き、
その経緯を知る人を訪ねて回ります。
祖父、宮部久蔵は、誰もが認めるすばらしいゼロ戦の操縦技術を持った人物だった。
しかし、死にたくないと公言する臆病な人だった
・・・そう聞いた健太郎はちょっと失望します。
けれども、多くの人を訪ねまわりながらわかっていく真実は、
もっとすばらしいものでした。


本作はその祖父の人間的魅力とあわせて、
当時の日本海軍のどうしようもない体質と
特攻の虚しさも重ねて私達に訴えかけます。
特攻はあくまでも「志願」が建前だけれども、
当時の状況でこれは決して拒むことなどできず、
「命令」と殆ど変わらなかった。
けれども、特攻の青年たちは、
お国のため凛々しく飛び立っていった・・・。
多くは目的の船に辿り着く前に撃ち落とされてしまったというのですが・・・。


宮部は確かに、
妻との約束を守り「必ず生きて帰る」ことを自らに課していたのです。
それなのに、あと数日で終戦という時に
特攻で命を落としてしまったのです。
なぜ・・・?
その答えを知るときには、つい涙がこぼれ落ちていました。
このストーリーのすごいのは
その筋立ての影にもう一つの真実が隠されているというところ。
人の思いは受け継がれていくのですねえ・・・。
価値ある一作です。

「永遠の0」百田尚樹 講談社文庫
満足度★★★★★