藤蔓の生命力に心打たれて
* * * * * * * * * *
激しい戦国の世で、御着城主・小寺政職は、
東に織田信長、西に毛利輝元の勢力に挟まれ、
身の振り方をどうするか決断を迫られていた。
彼に仕えている若き家老・黒田官兵衛は、織田側につくことを提案。
その結果、官兵衛が使者として信長がいる岐阜へ赴く。
さっそく信長との仲介を羽柴藤吉郎へ頼みに行くと、
軍師・竹中半兵衛に引き合わされる。
それは、官兵衛にとって、運命の歯車が廻り始めた瞬間だった…。
* * * * * * * * * *
2014年NHK大河ドラマの主人公、黒田官兵衛の若い時代を描いています。
最近歴史に興味を持ちだした、にわか歴女の私、
まあ、名前はよく出てくるけれど・・・というくらいで
よく知ってはいませんでした。
「黒田如水」は官兵衛が後に出家した時の名前で、
本作はそこのところまでは描かれていません。
もともとそう高い地位の家柄ではないのですが、
自己の知恵と力でのし上がっていった、
戦国武将の典型といってもいいと思います。
紹介文にもある通り、もともとは小寺政職につかえていたのですが、
これが優柔不断のダメな城主。
織田側につくよう官兵衛が説得すれば納得し、それでよしとするのですが、
その後他の配下に又説得されれば、簡単に前言を撤回。
全然あてにならない。
このために、官兵衛がひどい煮え湯を飲まされてしまう事件が中心となっています。
散々説得し納得させた、「織田側につく」という話を翻し、
毛利側につこうとする小寺政職の策にはまり、
荒木村重のもとにおよそ1年間、幽閉されてしまう。
彼は一粒種の息子松寿丸を信長の人質として差し出していたのですが、
荒木村重のところへ行ったまま帰らない官兵衛を、信長は「裏切り」とみなし、
直ちに人質を殺してしまえと命じます。
いかにもあの気性の激しい信長ですよね。
やがて、竹中半兵衛から信長のもとに、松寿丸のものという首が届きますが・・・。
本作、泣けるところが2箇所。
狭くて湿気がひどい穴蔵のような場所で、
粗末な食事でかろうじて生きながらえていた官兵衛が、
ある日、高窓に藤の蔓を見つけます。
生きる希望もなくし、もう死んでしまおうかと思い始めた時のこと。
彼はその蔓のみずみずしさに心打たれ、
なんとしても生き延びようと決意する。
すばらしいシーンですねえ・・・。
そしてもうひとつはラスト。
・・・まあ、知る人は知る話ですが、
今度の大河ドラマになる話でもありますので、ネタばらしはやめておきましょう。
しかし、穴蔵の中で1年を過ごした官兵衛の精神というのが、
何か一つ突き抜けているのが素晴らしくて、
それに重ねたように、主君と友との邂逅があったりする。
非常に小説的に完璧にできているのです。
それはもう、さすがに吉川英治。
今頃それを知ったというのも、お恥ずかしい話ですが。
本作は1989年の作品。
でも、歴史小説は、古びないからいいですよね・・・、
と思ったら、本巻巻末にこんな注釈がありました。
「本文中に生まれや職業、国籍、障害者を差別する語句や表現があるが、
人権意識の低い時代に発表されたものであること、
著者が亡くなっており、みだりに表現を改編すべきでないこと
などを熟慮の上、原文のままとしている」
と。
確かに、読みながらアレ?と思うことはありました。
近頃はまず見かけない言葉が時々出てきます。
古びないはずの歴史小説でも、
やはり時代と世の中の影響はあるものなのですね。
「黒田如水」吉川英治 角川文庫
満足度★★★★☆
黒田如水 (角川文庫) | |
吉川 英治 | |
角川書店 |
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激しい戦国の世で、御着城主・小寺政職は、
東に織田信長、西に毛利輝元の勢力に挟まれ、
身の振り方をどうするか決断を迫られていた。
彼に仕えている若き家老・黒田官兵衛は、織田側につくことを提案。
その結果、官兵衛が使者として信長がいる岐阜へ赴く。
さっそく信長との仲介を羽柴藤吉郎へ頼みに行くと、
軍師・竹中半兵衛に引き合わされる。
それは、官兵衛にとって、運命の歯車が廻り始めた瞬間だった…。
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2014年NHK大河ドラマの主人公、黒田官兵衛の若い時代を描いています。
最近歴史に興味を持ちだした、にわか歴女の私、
まあ、名前はよく出てくるけれど・・・というくらいで
よく知ってはいませんでした。
「黒田如水」は官兵衛が後に出家した時の名前で、
本作はそこのところまでは描かれていません。
もともとそう高い地位の家柄ではないのですが、
自己の知恵と力でのし上がっていった、
戦国武将の典型といってもいいと思います。
紹介文にもある通り、もともとは小寺政職につかえていたのですが、
これが優柔不断のダメな城主。
織田側につくよう官兵衛が説得すれば納得し、それでよしとするのですが、
その後他の配下に又説得されれば、簡単に前言を撤回。
全然あてにならない。
このために、官兵衛がひどい煮え湯を飲まされてしまう事件が中心となっています。
散々説得し納得させた、「織田側につく」という話を翻し、
毛利側につこうとする小寺政職の策にはまり、
荒木村重のもとにおよそ1年間、幽閉されてしまう。
彼は一粒種の息子松寿丸を信長の人質として差し出していたのですが、
荒木村重のところへ行ったまま帰らない官兵衛を、信長は「裏切り」とみなし、
直ちに人質を殺してしまえと命じます。
いかにもあの気性の激しい信長ですよね。
やがて、竹中半兵衛から信長のもとに、松寿丸のものという首が届きますが・・・。
本作、泣けるところが2箇所。
狭くて湿気がひどい穴蔵のような場所で、
粗末な食事でかろうじて生きながらえていた官兵衛が、
ある日、高窓に藤の蔓を見つけます。
生きる希望もなくし、もう死んでしまおうかと思い始めた時のこと。
彼はその蔓のみずみずしさに心打たれ、
なんとしても生き延びようと決意する。
すばらしいシーンですねえ・・・。
そしてもうひとつはラスト。
・・・まあ、知る人は知る話ですが、
今度の大河ドラマになる話でもありますので、ネタばらしはやめておきましょう。
しかし、穴蔵の中で1年を過ごした官兵衛の精神というのが、
何か一つ突き抜けているのが素晴らしくて、
それに重ねたように、主君と友との邂逅があったりする。
非常に小説的に完璧にできているのです。
それはもう、さすがに吉川英治。
今頃それを知ったというのも、お恥ずかしい話ですが。
本作は1989年の作品。
でも、歴史小説は、古びないからいいですよね・・・、
と思ったら、本巻巻末にこんな注釈がありました。
「本文中に生まれや職業、国籍、障害者を差別する語句や表現があるが、
人権意識の低い時代に発表されたものであること、
著者が亡くなっており、みだりに表現を改編すべきでないこと
などを熟慮の上、原文のままとしている」
と。
確かに、読みながらアレ?と思うことはありました。
近頃はまず見かけない言葉が時々出てきます。
古びないはずの歴史小説でも、
やはり時代と世の中の影響はあるものなのですね。
「黒田如水」吉川英治 角川文庫
満足度★★★★☆