映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

許されざる者

2013年09月20日 | 映画(や行)
一元的には語れない正義、人を殺める側の痛み



* * * * * * * * * *

1992年クリント・イーストウッド監督・主演作品のリメイク。
本作の製作が発表された時には、ひどく意外な感じがしたものでした。
あれを日本で…?! 
でも出演に渡辺謙、佐藤浩市と来たら、
自然に期待は高まってしまいます。


舞台は明治初期北海道。
北海道というのがまた、ミソですよね。
広大な大地を馬が駆けまわる。
先住民が居て、開拓者がいる。
考えてみれば西部劇の舞台とそっくり。
ストーリーは元作品をほぼ忠実になぞっています。
まあ、こちらを参照にしてくださいませ。
→クリント・イーストウッド版「許されざる者」



かつて人斬り十兵衛と呼ばれるほどに、
人を殺しまくった釜田十兵衛が渡辺謙さんの役どころです。
これはもう、他の誰にもできない、
まさしく渡辺謙さんピッタリの役。
しかし、今は亡き妻と、もう殺人はしないと約束しているのです。


そこへ儲け話を持ってきたのは、かつての仕事仲間、金吾。
これが柄本明さんで、初めてこのポスターを見た時に、
思わず、「あ、モーガン・フリーマン!」と思ってしまった。
まさに和製モーガン・フリーマンの風格であります。


そして、もう一人この話に加わるのが、
山育ちのチンピラ兄ちゃん風、柳楽優弥さん。
ひゃ~、あの、大好きだった「誰も知らない」の美少年が、
こうなりますか・・・。
しかし、なかなかいいじゃないですかね。
ここに、ウラナリの美青年が出てきてもリアリティがないし。
おそらく、ご本人自身が「美少年」のイメージから脱却したかったのだろうなあ
・・・と、それは感じられます。




それから、意外な登場人物、滝藤賢一さんは、
新聞記者・・・というか、今でいうライターですね。
この方、近頃TVドラマでよく目立つ。
私などよく名前も存じ上げなかったので、
職場の同僚と「ワンさん」と呼んでいましたが、
ようやく最近名前を覚えたところです。


そして、作中の敵役、大石一蔵が佐藤浩市さん。
さて、ところが色々な映画評を見ると、
この人物の背景が見えない、人物描写が浅い・・・というような意見が多い様に思いました。
(俳優の問題ではなくて、脚本の問題と注釈をつけながらですが。)
私も、そこにはうなずける気がしました。
(とはいえ佐藤浩市さんは迫力はあったのだけれど、
どこか悪人にはなりきれない感じが微妙にあるかな?) 
悪人と言うか、そうせざるを得ないポリシーみたいなもの。
虐げるもの、虐げられるもの。
搾取する側、搾取される側。
そして生きようとする側、殺す側。
これらが渾然となり、複雑な模様を描いていく。
これは元作品でも同じです。
そんな中で、正義とは何なのか
一元的には語れない難しさをテーマにしていると思うので、
大石の描き方も、もう少し深めて欲しいところではあります。




そして、普通西部劇やチャンバラでは
実にあっけなく人を殺し、人が死ぬのですが、
本作は切られた方の痛みはもちろん、
人を殺す方の“痛み”をしっかり描いているのです。
余程の気力と覚悟がなければ人を殺めることはできない。
クリント・イーストウッド版も良かったのですが、
本作はそれ以上に泥臭く重厚に、
まさしく東洋風味でレベルアップしていると思います。



北海道上川町でのロケは、
ライフラインもないところに資材を運び込んだり、
クマ対策で電気柵をめぐらしたり、
大変だったようです。
そして寒さも。
よく映画作品の雪のシーンで、
ちっとも寒そうではなくて物足りなかったりすることも多いのですが、
本作はまさしく凍てつく北海道の風景、
スタッフの皆様のご苦労が忍ばれますが、報われていると思います!!




「許されざる者」
2013年/日本/135分
監督:李相日
出演:渡辺謙、佐藤浩市、柄本明、柳楽優弥、忽那汐里

重厚度 ★★★★★
開拓期の北海道度★★★★☆
満足度★★★★★