死を胸に抱きながら生きる
* * * * * * * * * *
現実に絶望し、道閉ざされたとき、
人はどこを目指すのだろうか。
すべてを捨てて行き着く果てに、救いはあるのだろうか。
富士の樹海で出会った男の導き、
命懸けで結ばれた相手へしたためた遺言、
前世の縁を信じる女が囚われた黒い夢、
一家心中で生き残った男の決意―。
出口のない日々に閉じ込められた想いが、生と死の狭間で溶け出していく。
すべての心に希望が灯る傑作短編集。
* * * * * * * * * *
三浦しをんさんの短篇集。
本書は、「心中」を共通のテーマにした短篇集である。
と、著者による記述があります。
本作は「死」を扱っているのだとは気付きましたが「心中」だったとは・・・、
そこまで私は読めていませんでした。
一作目「森の奥」は富士の樹海に迷い込んだ二人の話。
富士の樹海といえば自殺の名所。
富山は確かに自殺しようとここにやってきたのですが、
青木という男に救われてしまいます。
こんな遊歩道に近いところではすぐに人に発見されてしまうと彼は言う。
富山は青木に案内を頼み、樹海の奥深くへとさまよい歩くことに・・・。
そもそもこの青木自身も死ぬためにここへやってきたのではないか。
この二人の付かず離れずの距離感がよいのです。
三浦しをんさんの男二人の描き方には、いつもしびれさせられます。
ラストはなんとなくそうなるのではないかと思ったのですが、
うん、それで正解。
納得の一作。
「君は夜」
理紗は、子供の頃から不思議な夢をみる。
それは夢というよりは、もうひとつの人生といってもいいくらいにリアルなもので、
江戸時代、彼女はお吉という名で、小平という男と一緒に住んでいるのだった。
それはもしかしたら理紗の前世なのかもしれないけれど、
夜毎江戸時代に生きる理紗は、
狂おしい女の情念を身にまといつけていく・・・。
「SINK」
悠助は、子供の頃に一家心中で父母と弟を亡くし、
だた一人生き残ったという経験を持っています。
友人悦也の助力もあり、今は工芸の金属造形でなんとか独り立ちし食べていける。
今も車ごと水に落ちた恐怖に夢でうなされ、
自分の足首を掴んだ母親のひんやりした感触が忘れられない。
そんな彼の複雑な友への感情。
この二人の距離感も又、やはり三浦しをんさんだな・・・と思わせられます。
悠助は悦也が苦手で嫌いで・・・、
でももちろんそれだけではないですよね。
ふとしたことで忌まわしい記憶が別のものへと変わっていくというのもいい。
溶接の熱とは裏腹にひんやりとした感触の一作。
紹介しきれなかった作品も、どれも好きです。
「死」がテーマではありますが
これらの作品の主人公達はやっぱり生きるのです。
「死」に一番近いところに行ったからこそ
生きる意味も生まれるのでしょう。
死を胸に抱きながら生きる・・・。
「天国旅行」三浦しをん 新潮文庫
満足度★★★★★
![]() | 天国旅行 (新潮文庫) |
三浦 しをん | |
新潮社 |
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現実に絶望し、道閉ざされたとき、
人はどこを目指すのだろうか。
すべてを捨てて行き着く果てに、救いはあるのだろうか。
富士の樹海で出会った男の導き、
命懸けで結ばれた相手へしたためた遺言、
前世の縁を信じる女が囚われた黒い夢、
一家心中で生き残った男の決意―。
出口のない日々に閉じ込められた想いが、生と死の狭間で溶け出していく。
すべての心に希望が灯る傑作短編集。
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三浦しをんさんの短篇集。
本書は、「心中」を共通のテーマにした短篇集である。
と、著者による記述があります。
本作は「死」を扱っているのだとは気付きましたが「心中」だったとは・・・、
そこまで私は読めていませんでした。
一作目「森の奥」は富士の樹海に迷い込んだ二人の話。
富士の樹海といえば自殺の名所。
富山は確かに自殺しようとここにやってきたのですが、
青木という男に救われてしまいます。
こんな遊歩道に近いところではすぐに人に発見されてしまうと彼は言う。
富山は青木に案内を頼み、樹海の奥深くへとさまよい歩くことに・・・。
そもそもこの青木自身も死ぬためにここへやってきたのではないか。
この二人の付かず離れずの距離感がよいのです。
三浦しをんさんの男二人の描き方には、いつもしびれさせられます。
ラストはなんとなくそうなるのではないかと思ったのですが、
うん、それで正解。
納得の一作。
「君は夜」
理紗は、子供の頃から不思議な夢をみる。
それは夢というよりは、もうひとつの人生といってもいいくらいにリアルなもので、
江戸時代、彼女はお吉という名で、小平という男と一緒に住んでいるのだった。
それはもしかしたら理紗の前世なのかもしれないけれど、
夜毎江戸時代に生きる理紗は、
狂おしい女の情念を身にまといつけていく・・・。
「SINK」
悠助は、子供の頃に一家心中で父母と弟を亡くし、
だた一人生き残ったという経験を持っています。
友人悦也の助力もあり、今は工芸の金属造形でなんとか独り立ちし食べていける。
今も車ごと水に落ちた恐怖に夢でうなされ、
自分の足首を掴んだ母親のひんやりした感触が忘れられない。
そんな彼の複雑な友への感情。
この二人の距離感も又、やはり三浦しをんさんだな・・・と思わせられます。
悠助は悦也が苦手で嫌いで・・・、
でももちろんそれだけではないですよね。
ふとしたことで忌まわしい記憶が別のものへと変わっていくというのもいい。
溶接の熱とは裏腹にひんやりとした感触の一作。
紹介しきれなかった作品も、どれも好きです。
「死」がテーマではありますが
これらの作品の主人公達はやっぱり生きるのです。
「死」に一番近いところに行ったからこそ
生きる意味も生まれるのでしょう。
死を胸に抱きながら生きる・・・。
「天国旅行」三浦しをん 新潮文庫
満足度★★★★★