映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

最愛の大地

2014年04月16日 | 映画(さ行)
男女の愛を中心に据えながら、骨太に“世界”を示す



* * * * * * * * * *

アンジェリーナ・ジョリー初監督長編作品。
ずっしりと重く私達に訴えます。
1992年。
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争での出来事。
ある日、普通に生活していたムスリム人であるアイラたちの元へ
セルビア軍がやってきて、外へ連れだされます。
男たちはそのまま射殺され、働けそうな若い女性たちは基地に連行されてしまいます。
そこで彼女たちは兵士たちの思うがまま。
ところがアイラの前にかつての恋人ダニエルが現れます。
彼はセルビア将軍の息子であり将校でもある。
アイラのことを忘れがたく思っていたダニエルは、
彼女を優遇するけれども、じきに転属となってしまいます。
その後アイラは辛くも基地を逃げ出し、ムスリムの同胞に合流。
しかしまたセルビア軍に捕らえられ、ダニエルと再開しますが、
画家として彼の肖像を描くことになります。

ダニエルの将校としての立場だから可能なことでしたが、
彼女は囲われの身となり、部屋からは一歩も出られない状況でありながら一見穏やかな日々が過ぎていきます・・・。



つい最近の(すみません20年以上前ですが、私にとっては最近に思える・・・)出来事ですが、
私はテレビのニュースで見ていただけ。
そこに住んでいる人々の苦悩を想像したこともないように思います。
同じ地に住む民族間の紛争の根深さが、救いようなく胸にのしかかります。



はじめに感じたのは、このように、片方がもう片方の生死を握っている状況で、
これが愛と呼べるのだろうか・・・ということ。
生きていくためには男に隷従する他ない。
愛なのか。
愛のフリなのか。
私達は彼女の真意を息を潜めて見つめることになります。
しかしこれは状況さえ違えば、確かな愛になり得たのです。
1対1で向きあえば唯の男と女。
でもこの場合、互いの背に負っているものがあまりにも違いすぎる。
個人的に恨みもなにもないのに、憎しみの連鎖にがんじがらめになっている状況を
私達は愚かだということはできません。
身の回りでも中国や韓国と日本の関係はまさに未だにその連鎖に絡め取られていて、
自分の心のなかにもそれはあるように思います。



今作の原題が「In the Land of Blood and Honey」ということで、
この方が率直に本作の内容を表していますね。
男女の愛を中心に据えながら、
骨太に“世界”を示してくれる、力作です。

最愛の大地 [DVD]
ザーナ・マリアノヴィッチ:アイラ,ゴラン・コスティック:ダニエル,レイド・セルベッジア:ネボイシャ,ヴァネッサ・グロッジョ:レイラ
Happinet(SB)(D)



「最愛の大地」
2011年/アメリカ/127分
監督:アンジェリーナ・ジョリー
出演:ザーナ・マリアノビッチ、ゴラン・コスティック、ラデ・シェルベッジア、バネッサ・グロッジョ

歴史発掘度★★★★★
憎しみの連鎖度★★★★★
満足度★★★★☆