映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「川あかり」 葉室麟

2014年04月23日 | 本(その他)
剣の腕はからきしだけど、武士としての魂は一流

川あかり (双葉文庫)
葉室 麟
双葉社


* * * * * * * * * *

川止めで途方に暮れている若侍、伊東七十郎。
藩で一番の臆病者と言われる彼が命じられたのは、
派閥争いの渦中にある家老の暗殺。
家老が江戸から国に入る前を討つ。
相手はすでに対岸まで来ているはずだ。
木賃宿に逗留し川明けを待つ間、相部屋となったのは
一癖も二癖もある連中ばかりで油断がならない。
さらには降って湧いたような災難までつづき、気弱な七十郎の心は千々に乱れる。
そして、その時がやってきた―。
武士として生きることの覚悟と矜持が胸を打つ、涙と笑いの傑作時代小説。


* * * * * * * * * *

葉室作品は割と硬質と思っていましたが、
本作、ほんのりユーモアも漂っていて、非常に読みやすい作品でした。
主人公・伊東七十郎は18歳。
藩で一番の臆病者といわれている彼が、
あろうことか家老の暗殺を命じられてしまった。
上からの命とあれば、決死の覚悟で従うのみ。
そこで相手を待受けるべく、巨勢河原へやって来たのですが、
降り続く雨で川が増水し、川止めとなってしまっています。
やむなく、この地に逗留し、川明けを待つことに。
しかし、同じ宿に泊まるのがどうにも胡散臭い者達ばかり。
ところが、彼らにもまた彼らの事情があった。
いつしか彼らが互いを理解し、協調関係となっていくのが、心地よい。


七十郎は確かに体力や剣の腕はからきしですが、
彼の武士としての魂が美しい。
女も知らず、ウブでまっすぐな若き七十郎君、
母性本能をくすぐりますねえ・・・。
葉室麟氏描くところの武士の心得は、
いつもながら凛として美しく、好きにならずにいられません。


降り続く雨。
舞台はずっと同じ川岸のおんぼろ木賃宿。
そこで繰り広げられる人間ドラマということで、ユニークさもひとしおです。
同宿の豪右衛門たちの過去の出来事というのも壮絶で、
よせばいいのに七十郎の困り事に首を突っ込んでしまう人のよいところもいい味ですしねえ・・・。
本作、映画になるといいなあ・・・と思ってしまいました。
七十郎くんには誰がいいかな・・・?

「川あかり」葉室麟 双葉文庫
満足度★★★★★