映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「東京観光」 中島京子

2014年12月26日 | 本(その他)
一筋縄ではいかない展開

東京観光 (集英社文庫)
中島 京子
集英社


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アパートの水漏れがきっかけで、下の階に住む男と親しくなったあかり。
男はある日、奇妙な相談を持ちかける。
「俺と、部屋を交換しない?」(「天井の刺青」)。

街のあちこちに灰色の公衆電話が存在していた、あの時代。
初めて東京を訪れた私が泊まったホテルの部屋には、
なぜか外国人女性が住んでいて……(「東京観光」)。
不思議で、ユーモラスで、じんわり染みる。
直木賞作家が贈る、味わい深い七つの物語


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中島京子さんの短篇集ですが、
それぞれに異なる味わいで、楽しめる一冊です。


冒頭「植物園の鰐(わに)」は、
タミコが植物園に行くと鰐に会えるという噂を頼りに
植物園を訪れる話。
鰐に会う? 
バナナワニ園にでも行けば?と一瞬思うのですが、
そうではなくある特定の鰐であるらしい。
ではこれは何か、寓話的なあるいは象徴的なストーリーなのか
と思いながら読み進みます。
銀杏の精の扮装をした大道芸人やら、
薬草園の男やら、
車椅子を押す男と、
深い意味があるようなないようなやりとりを繰り返しながら
たどり着いた先には・・・。
ごく普通の現実があるだけだったという意外な結末。
この意外性に逆に驚かされました。


「ポジョとユウちゃんとなぎさドライブウェイ」
ポジョという女の子が、
特別に親しいというほどでもないユウちゃんという女の子と、
ドライブ旅行に出かけるというストーリー。
このユウちゃん、失恋したて。
本当は彼と行くはずだった旅行がダメになったので、
やむなくポジョを誘ったというのが真相のようです。
でもユウチャンはその彼にまだ未練イッパイで、
イジイジとメール攻撃をしたりしている。
この子はいつもこんなふうだ・・・と、ポジョは思う。
悪い子じゃないんだけど、男と見ればすぐ擦り寄って行く。
なまじ可愛い顔なので、一瞬はいい仲になるのだけれど、すぐに駄目になる・・・。
こんなふうで、本作、
ポジョがユウちゃんのダメダメだけれどどこか魅力的な人間性を分析していくストーリーなのか?
と思ったのですが、
実は本題はポジョ本人の問題なのでした。
これもまた、意外な成り行きに驚かされ、そこがまたオモシロイ作品。


表題作「東京観光」
東京観光と言いつつ、東京タワーも浅草もディズニーランドも出てきません。
まだ20世紀のこと、保険外交員の「私」が、研修で初めて訪れた東京。
そのホテルの部屋に、何故か外国人女性が住み着いていたのです! 
人のよい「私」は3泊4日の東京滞在中、
彼女・マリアナと同室することにして、互いに親しくなっていきます。
賑やかで豊かに見える東京の裏のリアルな姿を「私」は知るわけですが、
でもそれは思ったほど悲惨というわけではありません。
何よりもマリアナとその同郷の友人たちの
たくましさと明るさに救われます。
でも確かに何よりも記憶に残る「私」の
東京の思い出となったわけです。


「東京観光」中島京子 集英社文庫
満足度★★★★☆