映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「路(ルウ)」吉田修一

2015年10月13日 | 本(その他)
台湾新幹線と人々のドラマ

路 (文春文庫)
吉田修一
文藝春秋


* * * * * * * * * *

ホテルの前でエリックからメモを渡された。
彼の電話番号だった。
「国番号も書いてあるから」とエリックは言った。
すぐに春香も自分の電話番号を渡そうと思った。
しかしエリックが、「電話、待ってる」と言う。
「電話を待っている」と言われたはずなのに、春香の耳には「信じてる」と聞こえた。
春香は自分の番号を渡さなかった。
信じている、あなたを、運命を、思いを、力を―。
商社員、湾生の老人、建築家、車輛工場員…
台湾新幹線をめぐる日台の人々のあたたかな絆を描いた渾身の感動長篇。


* * * * * * * * * *

台湾に日本の開発した新幹線が走る。
この出来事に関連した様々な人々のドラマです。


学生時代、台湾旅行でとある青年と知り合った春香。
しかし、彼の電話番号のメモをなくしてしまい、
その後全く連絡も取れないまま。
やがて時が経ち商社に就職した春香は、
台湾新幹線事業に関わることになり台湾で暮らしています。
一方、相手の彼エリックこと人豪は、
日本へ留学し勉学の後、建築家として活躍を始めています。
やはりあの時出会った日本人、春香のことが忘れられません。


互いに惹かれながらも連絡を取るすべもなく別れたまま。
そして何故か互いに祖国を離れ相手の国に住んでいるという構図が、
ロマンティックでもあり、この二人の行く末が案じられてなりません。
そうこうするうちにも、様々な問題を解決しながら、
新幹線開通の日が近づいてきます。


この二人とは別に、
台湾で生まれながらも終戦で日本に引き上げ、半生を過ごしてきた元技術者の老人。
台湾で青春を送る男女などのことが交互に語られますが
誰もが魅力的です。
これらバラバラのピースが最後の最後に、ピタリとハマるところも心地よい!!


そして特に台湾の街や田舎、自然の光景が素晴らしく魅力的。
私はこれまで台湾には特に思い入れはなかったのですが、
なんだか無性に行ってみたくなってしまいました。
映画「KANO」を見た時に、
意外と台湾の方は日本に親しみを感じているように思えたのですが、
本作でもまた然りです。
台湾の高速鉄道建設工事に関しても
もともとは欧州のユーロトンネル・システムが優先権を獲得していたのですが、
なおかつ台湾側が日本にもチャンスをくれたということなのです。
私が思っていたのよりもずっと台湾の方々は親日的。
私はもう少し台湾の歴史について学ぶべきなのかもしれません。


台湾新幹線の建設の記録であり、
友人や恋人たち、そして人生のドラマでもある。
読み応えたっぷりでやめられない面白さ。
オススメです!!

「路(ルウ)」吉田修一 文春文庫
満足度★★★★★