映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「東京すみっこごはん」成田名璃子

2015年10月17日 | 本(その他)
いつしか“家族”になっていく人々

東京すみっこごはん (光文社文庫)
成田 名璃子
光文社


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商店街の脇道に佇む古ぼけた一軒屋は、
年齢も職業も異なる人々が集い、
手作りの料理を共に食べる"共同台所"だった。
イジメに悩む女子高生、婚活に励むOL、
人生を見失ったタイ人、妻への秘密を抱えたアラ還。
ワケありの人々が巻き起こすドラマを通して明らかになる"すみっこごはん"の秘密とは!?
美味しい家庭料理と人々の温かな交流が心をときほぐす連作小説!


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成田名璃子さん、私には初めての作家です。
本作は新聞の書評で取り上げられていたので興味を持ちました。


商店街の脇道に「すみっこごはん」という看板の掛かった古ぼけた一軒家があります。
よほど寂れた食堂か何か・・・?
と思えばそこは風変わりな共同のキッチン。
その日集まった人がくじ引きで料理する人を決めます。
材料費のみを徴収。
料理はプロ級の腕前の人もいるけれど、
これまでほとんど料理したこともないという人も。
でも、まずくても決して文句を言わないのがルール。


本作は、ここに立ち寄る何人かの人たちが交代で主役となって、
短編の連作となっているのですが、
一体誰が何のためにこんなシステムを始めたのか。
その謎が明らかになっていきます。
いやしかし、灯台下暗しとはこのことか。
答えははじめから用意されていたのでした。


でも、一番初めの章が私にはやや不満。
どうも、いじめられている子の話が私は苦手なのです。
いじめという理不尽なことがどうして起こるのでしょう。
本作ではラインでコメントが遅れてしまった
ということだけで無視され仲間はずれにされるという少女のストーリー。
居場所がなくなった彼女を、
「すみっこごはん」に集う人々は温かく迎え入れます。
私が信じられないのは、たった一人のいじめのリーダー的存在に
何人もが従ってしまうということ。
そしてそんな目に会いながらもなお、
誰にも悩みを打ち明けず、ただ辛いだけの登校を続けるということ。
本でもテレビドラマでも、いつもこんな風。
そしてまたそれは事実でもあるのでしょう。
なぜもっとクラスメイトが人の痛みをわかってあげられないのか。
なぜ早く周りの人に助けを求めないのか。
(助けを求めてさえも無視されることもあるようのですが)。
そしてなぜ学校へ行かないという選択を早く取らないのか。
こういうことがもどかしく悔しくて、私は辛くなってしまうのです。
だから本作の始めからいじめストーリーが出てきたため、
失敗だったか?と思えたのですが、
それでも読んでいるうちに引きこまれていきました。
・・・おっと、余談ばかり長くなってしまった。


性格悪そうな毒舌オヤジの正体。
若き女性のブログにハマりまくっているイタいオヤジの真実。
こういうところは、なかなかいいですね~。

「東京すみっこごはん」成田名璃子 光文社文庫
満足度★★★★☆