映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

あん

2016年04月30日 | 映画(あ行)
どら焼きをほおばりながら見るべし



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はじめに映しだされるのは桜が満開、春爛漫の町の風景。
華やかなのにどこかさみしげな桜の花が、本作にはピッタリですね。



どら焼き屋の雇われ店長千太郎(永瀬正敏)は、働きもののようではありますが
何か屈託がありそうな不機嫌な顔つき。
それでもそこそこお客はついていて、女子中学生がたむろしていたりします。
そんな店に、ある時一人の老女(樹木希林)がやってきて、店で雇って欲しいという。
高齢なことと手が少し不自由そうだったので、仙太郎は一度断るのですが、
彼女が置いていったあんを食べてみて、その美味しさに驚いてしまいます。
そこで彼女、徳江に働いてもらうことに。

徳江のあんを使ったどら焼きは美味しさが評判となり、
行列ができるほどに繁盛します。
ところが、徳江がかつてハンセン病を患っていたという噂が流れ、
客足がバッタリ途絶えてしまうのです。
千太郎は不本意ながら、徳江を辞めさせなければなりませんでした。
でも、徳江のことが気になる千太郎は、徳江と心を通わせていた中学生ワカナ(内田伽羅)とともに、
徳江の住まいを訪ねてみるのですが・・・。



ワカナと同じくらいの年の時に療養所に隔離され、
外出もままならなかったという徳江の人生に暗澹とさせられます。
でも彼女はそんな人生の無念さや恨みを少しもにじませることなく、
ただ静かに月や木々、小豆が語りかける言葉を聞き取ろうとします。
なんと静かで強い心であることか。
そんな徳江が、はじめて外の世界で普通に働いて人々に喜ばれた。
ほんの暫くの間ではありましたが、
それが彼女にとってどんなに素敵な体験であったか、ということも身にしみます。
徳江と同じく、静かでとても強い物語でした。



そうそう、ワカナ役の内田伽羅さんは樹木希林さんの孫娘だそうです。
自然体で克つ個性的。
いい感じでした。
これを見るとやっぱりどら焼きが食べてみたくなりますねえ・・・。
焼きたてのほかほかのどら焼き、美味しそうだなあ~。

あん DVD スタンダード・エディション
樹木希林,永瀬正敏,内田伽羅,市原悦子,水野美紀
ポニーキャニオン


「あん」
2015年/日本・フランス・ドイツ/113分
監督・脚本:川瀬直美
原作:ドリアン助川
出演:樹木希林、永瀬正敏、内田伽羅、市原悦子、浅田美代子、水野美紀