迷える若い二人
* * * * * * * * * *
松前藩の屋敷に勤める不破家の茜は、嫡男の良昌に見初められ、
側室に望まれていた。
伊三次の息子、伊与太に思いを寄せる茜は、その申し出をかわしていたが、
良昌の体調が刻一刻と悪くなっていくことに心を痛める。
一方、伊与太は良い師匠に恵まれたものの、才気溢れる絵を描く弟弟子から批判され、
自らの才能に悩んでいた。
思い詰めた彼は、師匠と親交のある当代一の絵師、葛飾北斎のもとを訪れる――。
人生の岐路を迎える息子や弟子に、伊三次は何を伝えられるのか。
大人気捕物帖シリーズ第13弾。
* * * * * * * * * *
まだ文庫化されていない本作は、図書館で借りました。
ただこの後の二巻は予約がいっぱいで、いつ順番が回ってくるものやら。
それを考えると、この本がたまたま図書館の棚にあったのが、まるで奇跡のようでもあります。
さて本巻、不破家の茜の様子に変化が。
松前藩の若殿に気に入られてしまったのが逆に彼女を苦境に陥れていたわけですが、
その若殿、良昌が体調を崩し・・・。
こんなことを言うのはなんですが、この悲劇は実は救いだと思ったりする。
私は嫌なヤツ・・・。
でも、皆様もきっとそう思うのでは?
一方伊与太は、良い師匠のもとで絵の修業に励んでいたのですが、
そこへ新入りの弟子が入ってきます。
彼は伊与太から見ても才能が見て取れる。
それに引き換え自分は・・・と、どんどん自信を失っていきます。
そんな時、師匠と交友のある葛飾北斎の元を訪ねるのですが・・・。
そこでは北斎の娘、お栄さんとも会います。
「百日紅」のアニメで見た北斎とお栄さんを思い出す、良いシーンでした。
北斎は偉ぶったところがまるでなく気さくです。
「誰のために絵を描くのか」と北斎はいいます。
客のためか、版元のためか。
いや、おれは自分が見たくて描いているんだ」。
自分の道を見失う伊与太には、とても貴重なアドバイスでした。
この若い二人が、自分の道をまっすぐに思い描くことができるには、
まだ長い時間が必要なようです。
ラストの「汝、言うなかれ」は、久々に主役がいつもの常連を離れます。
13年前の江戸の大火の直前、ある男が殺人を犯してしまうのですが、
火事のために事件は発覚しませんでした。
その罪を一人抱えたまま、彼はある大店の婿となります。
その時に、自分の秘密を、妻に明かすのです。
決して誰にも話さないようにと念を押しながら。
そして現在、彼とは不仲な男が不審死。
もしや夫がまた人を殺めたのでは・・・と疑心暗鬼にかられる妻。
その事件の捜査でようやく伊三次らの登場となります。
こういうのもまた、面白いですね。
殺人を犯す人と犯さない人、その一線はどこにあるのか。
今も昔も、語り尽くせない命題でありましょう。
「昨日のまこと、今日のうそ 髪結い伊三次捕物余話」宇江佐真理 文藝春秋
満足度★★★★☆
![]() | 昨日のまこと、今日のうそ 髪結い伊三次捕物余話 |
宇江佐 真理 | |
文藝春秋 |
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松前藩の屋敷に勤める不破家の茜は、嫡男の良昌に見初められ、
側室に望まれていた。
伊三次の息子、伊与太に思いを寄せる茜は、その申し出をかわしていたが、
良昌の体調が刻一刻と悪くなっていくことに心を痛める。
一方、伊与太は良い師匠に恵まれたものの、才気溢れる絵を描く弟弟子から批判され、
自らの才能に悩んでいた。
思い詰めた彼は、師匠と親交のある当代一の絵師、葛飾北斎のもとを訪れる――。
人生の岐路を迎える息子や弟子に、伊三次は何を伝えられるのか。
大人気捕物帖シリーズ第13弾。
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まだ文庫化されていない本作は、図書館で借りました。
ただこの後の二巻は予約がいっぱいで、いつ順番が回ってくるものやら。
それを考えると、この本がたまたま図書館の棚にあったのが、まるで奇跡のようでもあります。
さて本巻、不破家の茜の様子に変化が。
松前藩の若殿に気に入られてしまったのが逆に彼女を苦境に陥れていたわけですが、
その若殿、良昌が体調を崩し・・・。
こんなことを言うのはなんですが、この悲劇は実は救いだと思ったりする。
私は嫌なヤツ・・・。
でも、皆様もきっとそう思うのでは?
一方伊与太は、良い師匠のもとで絵の修業に励んでいたのですが、
そこへ新入りの弟子が入ってきます。
彼は伊与太から見ても才能が見て取れる。
それに引き換え自分は・・・と、どんどん自信を失っていきます。
そんな時、師匠と交友のある葛飾北斎の元を訪ねるのですが・・・。
そこでは北斎の娘、お栄さんとも会います。
「百日紅」のアニメで見た北斎とお栄さんを思い出す、良いシーンでした。
北斎は偉ぶったところがまるでなく気さくです。
「誰のために絵を描くのか」と北斎はいいます。
客のためか、版元のためか。
いや、おれは自分が見たくて描いているんだ」。
自分の道を見失う伊与太には、とても貴重なアドバイスでした。
この若い二人が、自分の道をまっすぐに思い描くことができるには、
まだ長い時間が必要なようです。
ラストの「汝、言うなかれ」は、久々に主役がいつもの常連を離れます。
13年前の江戸の大火の直前、ある男が殺人を犯してしまうのですが、
火事のために事件は発覚しませんでした。
その罪を一人抱えたまま、彼はある大店の婿となります。
その時に、自分の秘密を、妻に明かすのです。
決して誰にも話さないようにと念を押しながら。
そして現在、彼とは不仲な男が不審死。
もしや夫がまた人を殺めたのでは・・・と疑心暗鬼にかられる妻。
その事件の捜査でようやく伊三次らの登場となります。
こういうのもまた、面白いですね。
殺人を犯す人と犯さない人、その一線はどこにあるのか。
今も昔も、語り尽くせない命題でありましょう。
「昨日のまこと、今日のうそ 髪結い伊三次捕物余話」宇江佐真理 文藝春秋
満足度★★★★☆