映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ノクターナル・アニマルズ

2017年11月10日 | 映画(な行)
顕著な女性嫌悪



* * * * * * * * * *

現代アートギャラリーのオーナー、スーザン(エイミー・アダムス)は、
最近夫とうまく行っていません。
そんな彼女の元に、20年前に離婚したもと夫のエドワード(ジェイク・ギレンホール)から、
小説の原稿が送られてきます。
以前から小説家を目指していた彼でしたが、ずっと芽が出なかった。
その彼が自信の新作を完成したという。
一人で過ごす終末。
所在なくスーザンはその小説を読み始めますが、
次第にのめり込んでいきます。



本作はその小説の内容を、
スーザンとエドワードの出会いから別れまでのシーンを挟みながら追っていきます。


その小説の冒頭シーンがこうです。
夜、車通りの少ない田舎の道を行く一台の車。
夫婦と10代の娘が乗っています。
その主人公・トニーに、スーザンのもと夫エドワードと同じ人物
(ジェイク・ギレンホール)を配しているところがミソですね。
それだけスーザンが小説とほぼ同化しながらのめり込んでいるということを表しています。
さて、その車の行く手を阻むようにちんたらと走っている車が2台。
トニーはイライラしてついクラクションを鳴らしてしまいます。
さてところが、そのことが相手の車を怒らせた。
煽り運転が始まり、ついには車ごと体当たり、
とうとう停車を余儀なくされます・・・。
車から降りてきたのはいかにもたちの悪そうな若者たち。

警察を呼ぼうにも、ここは携帯も圏外の田舎・・・。
こちらは頼りにはならなさそうな男が一人と女二人・・・。
状況は最悪。
そして、実際に悲劇が・・・。



うーん、あまりにも日本の今日的光景なので、苦笑いしてしまいました。
何処も同じか・・・。
いやまあ、とにかくこれはあくまでも「小説」の中の話です。
ですが、スーザンはその異様な迫力ある描写に魅せられてしまう。
エドワードはこんな才能を秘めていたのか・・・と、今更見直すのです。
そんな矢先、今の夫との電話のやり取りで、彼が女と一緒であることに気がついてしまう。
そんな反動もあって、エドワードに連絡を取ってしまうスーザン・・・。



本作で、中空に投げ出されたような気にさせられるのは、ラストのところです。
「え、これで終わり?」という終わり方なのですが、
でもそこで考えてしまう。
結局この小説を送りつけてきたもと夫、エドワードの意図は何だったのか?
なんだか怖い気がしてきます。


内田樹氏ではないけれど、私、本作には非常に「女性への悪意」を感じます。
そもそも冒頭シーンに驚かされますよね。
肥満体の女性(しかも若くはない)が、全裸で踊るのです。
垂れ下がった胸、お腹や、たぷたぷの皮膚が揺れる・・・。
それがスーザンが手がけたアート作品なのですけれど。
確かにインパクト大ですが美しいとはいい難い・・・。
見ようによっては「女の正体なんてこんなもの・・・」と言っているようでもあります。



仕事で成功し、家事などしない「女」。
その実の孤独を克明に浮かび上がらせる。
そしてさらに追い打ちをかけるようなラスト。
小説中でさえ、女性はレイプされた上に殺されるというひたすら悲惨な描き方。
男性の、「女性嫌悪」の表象としか思えない作品であります。
逆に言えば、自立し男性以上の仕事をしようとする女は
これぐらいのことを覚悟しなければならない、ということか・・・。
まあ、面白くはあったけど・・・。


<ディノスシネマズにて>
「ノクターナル・アニマルズ」
2016年/アメリカ/116分
監督:トム・フォード
原作:オースティン・ライト
出演:エイミー・アダムス、ジェイク・ギレンホール、マイケル・シャノン、アーロン・テイラー=ジョンソン、アイラ・フィッシャー
女性嫌悪度★★★★★
満足度★★★.5