映画と本の『たんぽぽ館』

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婚約者の友人

2017年11月21日 | 映画(か行)
「ウソ」について



* * * * * * * * * *

1919年ドイツ。
第一次世界大戦後のこと。
婚約者フランツを戦争で亡くしたアンナは、
フランツの両親とともに悲嘆に暮れる日々を過ごしています。
ある日、見知らぬ男がフランツの墓に花を手向けているのを目撃するアンナ。

その男、アドリアンは戦前、パリ留学中のフランツと親しかったというのです。
フランス人はドイツ人にとってにくい敵。
始めはアドリアンを拒絶していたフランツの両親も、
アドリアンが語るフランツとの思い出話に心が癒され、
彼が来るのを心待ちにするようになります。

そしてまた、アンナもアドリアンに心惹かれていくのですが・・・。
実はアドリアンは大きな秘密を抱いていた。



はじめ予告編を見たあたりで私は、フランツとアドリアンは愛人関係だったのだろう、
などと思ってしまったのですが、全然そういう話ではありませんでした。
結構怪しいシーンもあったりするんですけどね・・・。



ほとんど全編モノクロですが、時折アンナの心が高揚していくような時に、
画面も色彩を帯びてきます。


さて本作、結局これはラブストーリーというよりも
「ウソ」についての物語だったように思います。
アドリアンの抱えていた秘密というのは、
フランツの両親が知るとまずいことでした。
その秘密を知ったアンナは、両親には知らせないことにします。
それは表向き、両親が真実を知って衝撃を受けないようにとの配慮です。
でも本当は彼女自身のためなんですよね。
両親が本当のことを知ってしまえば、自分がアドリアンと愛し合う事自体がタブーになってしまう。
アンナはウソをつくことの大義名分を得ようとするかのように
わざわざ教会へ行って告解をするのです。

両親がショックをうけるので、とても本当のことをいえないけれど、
ウソを付くのが心苦しい・・・と。

ここではもちろん自分の感情については明かしません。
やがてアドリアンはフランスへ帰っていきますが、
その後アンナが彼に当てた手紙が宛先不明で戻ってきてしまう。
フランツの両親は、アンナとアドリアンのことを応援する気持ちでいっぱいなので、
アドリアンの行方を探すためにアンナをフランスへ送り出します。
アンナはなんとかアドリアンの行先を探し出し、再会しますが・・・。
そこでまた新たな衝撃が!


アンナにとっては絶望的な状況に陥ってしまうわけなのですが、
彼女はそこでもまたウソの手紙を両親に書き送らなければなりません。

「アドリアンと再開できました。
毎日一緒に美術館へ行ったりして楽しく過ごしています・・・」

ここで本当のことを書くためには、
これまで両親に嘘をついていたことをも明かさなければなりません。
そうすると、自分の利己心までもを晒さなければならなくなる・・・。
自分のウソが更にまた自分を縛り付け、どうにもならなくなってしまうという悲劇です。



それから、多分フランツはパリ留学のことをさぞ楽しかったように
アンナや両親に話していたと思われるのですが、
アンナが彼の宿泊していたというホテルに行ってみると、
そこはいかがわしいほとんど連れ込み宿のようなところ・・・。
そして彼が好きだったという美術館のマチスの絵というのは・・・。
フランツも自分の惨めさを押し隠すように嘘をついていたのですね。
そして、アドリアンも・・・。

人は相手について、自分が見たいように見る。
そういうことをも言っているようです。


なかなか見ごたえのあるドラマでした。


<シアターキノにて>
「婚約者の友人」
2016年/アメリカ/113分
監督:フランソワ・オゾン
出演:ピエール・ニネ、パウラ・ベーア、アントン・フォン・ルケ、エルンスト・ストッツナー、マリー・グルーバー

嘘のせつなさ度★★★★☆
満足度★★★★☆