映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「差配さん」塩川桐子

2017年11月19日 | コミックス
江戸の暮らしと猫と

差配さん
塩川桐子
リイド社


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江戸時代にもさまざまな悩みごとがありました。
ですが江戸庶民と猫の暮らしを通して見えてくるのは
人や動物たちの「あたたかさ」だったのです。
江戸の市井に生きるものたちが抱える悩みを
機転を利かせて解決するのは何を隠そう、この「差配さん」です!
(注:人ではなくて、猫なんです)


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江戸時代を舞台とするコミック。
浮世絵調の登場人物に、何やら杉浦日向子さんを思わせますが・・・。


まずは、第一話をひも解きます。

ある女が「差配さん」と呼ばれる初老男性のところに男の子を一人連れてきます。
新しい男と暮らすのに都合がわるいので、
子どもを預かってほしいと言ったきり、女は退場。
坊やは母親が去るとひとしきり泣くのですが、差配さんは知らんぷり。

「涙なんざ まあ そういつまでも出るもんじゃねえから」

と、泣くに任せているのです。
そして坊がようやく泣き止むと、馴染みらしい店へ行ってごはんを食べさせる。
それから、人とうまく付き合うコツなどを坊に言い聞かせつつ、
大声で夫婦喧嘩をしている家の前にやってきます。

さて、そこで場面は切り替わって後日譚。
あの夫婦ゲンカをしていたおかみさんが近所のおかみさんと立ち話。

「この間、夫婦喧嘩をしていたら、大きな猫が子猫を連れてきて、置いていってしまった。
 仕方ないから子猫を飼うことにしたけれど、
 なんだかイライラしなくなって、喧嘩もしなくなった」

と彼女は言う。

「それはこの辺で差配さんと言われている猫だよ。」

このあたりあちこちでおまんまをもらって大事にされている猫
というのがその「差配さん」なのでした。


いきなり子どもを置いていってしまう母親、
という話に驚いたわけですが、つまりは猫の話だったわけですね。
猫が人間の姿で登場する「綿の国星」系のストーリーでした。


この第一話で、ギュッと心をつかまれるわけですが、
その後もじんわりと心にしみる人情噺が続きます。
個性ある登場人物たちも、猫だったり人だったり、時には幽霊や他の動物だったりもします。
いつまでも読んでいたい、一冊。
続きが出るといいな。

「差配さん」塩川桐子 リイド社
満足度★★★★★