映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ウインド・リバー

2018年08月03日 | 映画(あ行)

本作に圧倒される、一つの事情

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ネイティブアメリカンが追いやられたワイオミング州の雪深い土地、ウインド・リバー。
雪原で先住民の血を引く若い女性の遺体が発見されます。
新米FBI捜査官ジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)が派遣され、
遺体の第一発見者であり、地元のベテランハンター、コリー・ランバート(ジェレミー・レナー)の協力を得て、
事件の真相を追います。



ランバート自身以前に娘を亡くしており、それゆえに捜査に協力する気になったのです。
つまりは、犯人を追い詰めるハンター。
まあ、若い女性が暴行を受けた挙げ句殺害され、その犯人を突き止めるという話ならこれまでにいくつもありました。
けれど本作はもっと重い現実を私達に突きつけます。
この被害者は執拗に暴行を受け、そこから逃げ出したようなのです。
ところが外気はマイナス30度。
そこを走ると、その冷気で肺の血液が凍り、肺が破裂して死んでしまうのだといいます。
しかも裸足。
彼女が逃げ出した場所から、遺体が発見された場所までは数キロ。
そこを手足が凍傷となりついには肺が破裂するまで走り続けた、
その生きようとする圧倒的な「強い意志」に驚かされるのです。
先住民の誇り高い「生」の声が聞こえるようです。



がしかし、実際はろくな産業もなく寂れ果てたこの土地にやってくるのは、
荒くれた半端者ばかり。
映画の最後に明かされるのですが、この地で失踪した先住民の女性が異常に多数であると・・・。
こんな、吹き溜まりのようになってしまった土地で生きていく他ない先住民たち。
一体誰がこんなふうにしたのか。
静かな怒りがこめられているような、大変力のある作品だと思いました。



終盤突然始まる銃撃シーンにも驚かされます。
日常の中に、こんなふうに当たり前に「銃」がある社会。
それもまた救いようのない現実なんですね・・・。
銃規制は、しようと思えばできないことではないのに・・・。



<ディノスシネマズにて>
「ウインド・リバー」
2017年/アメリカ/107分
監督:テイラー・シェリダン
出演:ジェレミー・レナー、エリザベス・オルセン、ジョン・バーニサル、ジル・バーミンガム、ケルシー・アスビル

生きる意志度★★★★★
社会問題度★★★★☆
満足度★★★★☆