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「錆びた滑車」若竹七海

2018年08月25日 | 本(ミステリ)

不運すぎるタフな女探偵

錆びた滑車 (文春文庫)
若竹 七海
文藝春秋

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女探偵・葉村晶は尾行していた老女・石和梅子と青沼ミツエの喧嘩に巻き込まれる。
ミツエの持つ古い木造アパートに移り住むことになった晶に、
交通事故で重傷を負い、記憶を失ったミツエの孫ヒロトは、
なぜ自分がその場所にいたのか調べてほしいと依頼する―。
大人気、タフで不運な女探偵・葉村晶シリーズ。

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若竹七海さんの、女探偵・葉村晶シリーズの文庫書き下ろし。
なんとも嬉しい企画です!
待ってました! 
この文庫の帯についた葉村のキャッチフレーズが「不運すぎるタフな女探偵」。
まさに。

それからこの文庫本の初期限定として、葉村晶シリーズのガイドパンフレットがついているのですよ。
ファンにとってはウレシイおまけ。
その中に著者の文章もありまして、
そもそもが葉村晶を初めに登場させたときは、
サラ・パレツキーのV・I・ウォーショースキー、
スー・グラフトンのキンジー・ミルホーンなどの女性私立探偵が続々と日本に上陸したときで、
自分でも書いてみたいと思ったそうなのです。
私はウォーショースキーしか知らないのですが、
葉村晶を読むたびにウォーショースキーを思い出していたのは、的外れではなかったということですね。
そして、作者に13年もほったらかしにされながらもしぶとく生き延びてきた葉村晶は、
不運どころか、とんでもない強運の持ち主なのではないか、とも著者は言っています。

そうではありますが、やはり本作でも、
人の喧嘩に巻き込まれて怪我をしたり、
いつも寝不足で、膝が今にもだめになりそうなのを駆使し、
引っ越しをしなければならず、とりあえず荷物を運んだ先では火事に会う。
またついには、留置場に・・・? 
そしていよいよラストでは思いがけない人物から襲撃を受けて・・・!!
相変わらず、タフで不運なのでした・・・。
でもいつもブツブツいいながらも、真実を突き止めるために
知力と体力の及ぶ限り頑張ってしまう葉村晶が大好きです!

この度は痛みを和らげるのに用いる医療用麻薬のことが底流のテーマとなりますが、
少しとっつきにくいけれども、次第に愛着のわく登場人物、
青沼ミツエとその孫ヒロトの悲運があって、
なかなか辛いストーリーとなっています。


本巻の葉村晶語録。

★目的のためでも手段は選ぶが、許される手段の上限も下限も自分で決めたい。

★ぬくぬくとした環境にながくいるとえぐみが出る。コーヒーも、人も。

★飛べなくてもブタはブタだが、歩けない探偵は探偵ではいられない。

「錆びた滑車」若竹七海 文春文庫
満足度★★★★☆