徳川綱吉の本当の功績
最悪の将軍 | |
朝井 まかて | |
集英社 |
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生類憐れみの令で知られる江戸幕府の五代将軍・徳川綱吉は、
旧来の慣習を改め、文治政治を強力に推し進めて日本の礎を築いた。
だが、その評価は大きく分かれている。
加えてその治世には、赤穂浪士討ち入りや富士山噴火など、数々の難事が生じた。
綱吉は暗君か、それとも名君だったのか。
今も世間に誤解される将軍の、孤高かつ劇的な生涯を、
綱吉とその妻・信子の視点で直木賞作家が描ききった傑作歴史長編。
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五代将軍・徳川綱吉といえば思い浮かぶのは「生類憐れみの令」。
犬公方と呼ばれ、ダメな将軍のイメージが強いのですが・・・。
朝井まかてさんがその実像に迫ります。
綱吉が将軍として在位したのは1680年から1709年の29年間。
それまではあくまでも「武力」によって国を治めていたわけですが、
江戸幕府の統治も落ち着き、戦乱の世も遠くなってきた。
そこで綱吉は、武力には寄らず、儒学を基とし、徳を重んずる「文治政治」を推し進めたわけです。
「生類憐れみの令」というのも、人も動物も命は等しく大切である・・・と
綱吉は言いたかったのだけれど、
お触れになるとその文言ばかりが一人歩きをして、
人間より動物のほうが大事というイメージが独り歩きしてしまった・・・ということのようです。
下の方のお役人が忖度しまくった・・・。
まあ、それはともかく、本当は「文治政治」に踏み切ったことこそが、綱吉の最大の功績
ということでもう少し評価されていいのかもしれませんね。
本作は綱吉本人とその妻・信子の視点で書かれていますが、
いまいち感情移入しにくい気がします。
もっと生き生きとした生身の人間を感じるシーンがあればよかったのでは、と。
いずれにしてもご立派な雲の上の人のように感じてしまう。
しかし中で、初めて異人と面会するシーンがあったのですが、そこはとても良かった。
驚きやら好奇心やら、生の人間味が感じられるところです。
まあ、実のところ将軍とその妻と言っても、会うためにはいろいろな手順が必要で、
そう簡単に心をかよわせられないと、そんな事情もありそうですけれど。
ところで、この綱吉将軍の期間に、赤穂浪士の討ち入り事件があったり、
富士山の噴火があったりしたのですね。
綱吉が「文治政治」を推し進めているところで、城内での刃傷沙汰ということで、
この出来事が相当綱吉の逆鱗に触れたという事情がよくわかります。
富士山の噴火というのも、あまりリアルに書かれたのものをこれまで読んだことがなく、
今で言う激甚災害だったことがわかります。
さすが富士山の噴火。そのスケールも大きい。
まだまだ知らない「歴史」があるものですね!
図書館蔵書にて
「最悪の将軍」朝井まかて 集英社
満足度★★★☆☆