廃墟のベルリンの空は・・・
ベルリンは晴れているか (単行本) | |
深緑 野分 | |
筑摩書房 |
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総統の自死、戦勝国による侵略、敗戦。
何もかもが傷ついた街で少女と泥棒は何を見るのか。
1945年7月。
ナチス・ドイツが戦争に敗れ米ソ英仏の4カ国統治下におかれたベルリン。
ソ連と西側諸国が対立しつつある状況下で、ドイツ人少女アウグステの恩人にあたる男が、
ソ連領域で米国製の歯磨き粉に含まれた毒により不審な死を遂げる。
米国の兵員食堂で働くアウグステは疑いの目を向けられつつ、
彼の甥に訃報を伝えるべく旅出つ。
しかしなぜか陽気な泥棒を道連れにする羽目になり
―ふたりはそれぞれの思惑を胸に、荒廃した街を歩きはじめる。
最注目作家が放つ圧倒的スケールの歴史ミステリ。
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2019年本屋大賞ノミネート!
第160回直木賞候補
第21回大藪春彦賞候補
『このミステリーがすごい! 2019年版』 第2位! (国内編)
『週刊文春』 2018年 ミステリーベスト10 第3位! (国内部門)
「ミステリが読みたい!」2019年版 第10位! (国内編)
先に「戦場のコックたち」を読んで衝撃を受け、
そしてまた本作の輝かしい各所での注目度で、いても立ってもいられず、
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どこまでも節約モードの私です。
前作で、欧州舞台の戦場描写、著者の力量に驚かされましたが、
本作では更にグレードアップ。
時代は前後しながらも、
ナチス党がどんどんのし上がっていき、欧州をほぼ手中に入れ、
しかしその後連合軍とソ連軍により追い詰められ、
ついに敗戦となるまでが、アウグステの視点からつぶさに描かれています。
語り手はドイツ人の少女アウグステ。
すでに戦争は終着しており、ベルリンは米ソ英仏の四カ国統治下にあります。
米国の兵員食堂に職を得たアウグステですが、
彼女の恩人である男性の死に関わるのでは?との疑いを受けてしまいます。
そしてアウグステは、ソ連内務人員委員部のドブリギン大尉の意を受け、
故人の甥に当たる人物を探すことになります。
アウグステは空襲で廃墟となったベルリンの町をさまよい歩き、様々な人々を見ることになる。
そんな中で、彼女と道連れになるのは、この戦争で心や体に傷を追ったポンコツのメンバーたち。
ほんの2日ほどの道行きですが、
合間にアウグステのこれまでの波乱と悲しみに満ちた半生が語られるのです。
アウグステの両親はヒトラーの思想には反感を持っていました。
しかし、国内でヒトラーはぐんぐんと人気を得てのし上がり、独裁政権を築きあげていく。
そんな中ではナチスに批判的な意見を口に出すだけでも犯罪者扱い。
そんなことで、アウグステは両親だけではなく、
妹のように思っていた子供までもを亡くしてしまうのです。
親しかったユダヤ人の家族が辛い目に会うのも目撃。
しかし、自分が生きるためには見て見ぬふりしかできなかった・・・。
このあたりの描写は「あのころはフリードリヒがいた」を彷彿とさせます。
日に日にユダヤ人の生きる場が失われていく様。
そしてドイツの一般の人々は同情を見せることもなく、なお彼らに辛く当たるばかり。
このようなあからさまな戦中のドイツの国の事情を語りながらも、
本作はちゃんとミステリ仕立てになっているという・・・、
なんともすごい作品なのでした。
しかも後味が極めてよろしい。
アウグステの真っ直ぐで強い心が、周りの人々をも変えていくようです。
きっと彼女が見上げるベルリンの空は晴れているに違いない。
この時代のドイツと日本の事情がとても良く似ていると、改めて思いました。
ナショナリズムに国中が突き動かされることの危険性。
それは当時ばかりでなく現在でこそなお、心に留めなくてはなりません。
若い人には特に、本作、読んでほしいと思います。
「ベルリンは晴れているか」 深緑野分 筑摩書房
満足度★★★★★