女性に裏切られることを期待している・・・?
仏陀の鏡への道 (創元推理文庫) | |
Don Winslow,東江 一紀 | |
東京創元社 |
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1977年3月。
ヨークシャーの荒れ野に隠栖していたニールの元に仕事が持ち込まれた。
鶏糞から強力な成長促進エキスを作り出した有能な生化学者が、
一人の姑娘に心を奪われ、新製品完成を前に長期休暇を決め込んだらしい。
香港、そして大陸へ。
文化大革命の余燼さめやらぬ中国で、探偵ニールが見たものとは。
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ドン・ウィンズロウの「ストリート・キッズ」から始まる探偵ニールのシリーズ第二弾。
ニールは前作の事件の後、ニューヨークには戻らず
そのままイギリス、ヨークシャーの荒れ野で隠遁生活を営んでしたようです。
しかしそんな彼のもとに、ついに新たな仕事が持ち込まれる。
それは有能な科学者が中国人の姑娘に心を奪われ、仕事に戻らないので
説得して連れ戻してほしいという、意外にも簡単そうな依頼。
重い腰を上げつつ向かったサンフランシスコで、
ニールはなんとかこの二人との対面を果たします。
しかし、ニールは出会ったばかりの李藍(リ・ラン)に一目惚れ。
(彼女は娼婦などではなく画家でした。)
しかしそのポーッとなった直後、一発の弾丸がニールをかすめる。
李蘭と研究者ペンドルトンはその後直ちに逃亡。
怪我はなかったけれど置いてきぼりを食らったニールは、
あくまでも二人を探し出そうと今度は香港へ向かうのですが・・・。
決して行くべきではなかった、香港、そして中国の本土。
この後ニールは壮絶な苦難の旅を続けることになります。
一作目ではそれほどまでに感じなかったドン・ウィンズロウ色を
ここでは強く感じ始めました。
作中の中国は毛沢東の文化大革命が終焉を迎えた直後。
そのことが詳しく描かれています。
この文革によって中国の国土や人々がどんなに混乱し壊滅状態に陥っていったのか・・・。
ニールを巡る状況は様々な利害関係にある人々の思惑でくるくると変わり、
誰が味方で敵なのやら見当もつかない。
李藍にしても、その心はペンドルトンにあるのかそれともニールにあるのか、謎なのです。
そんなぐちゃぐちゃの状況で、ニールは結局、己の良心・正義を信じて行動することにする。
はっきりとペンドルトンの意見を聞こう。
中国に残って研究を続けたいのか、それとも故国アメリカに戻りたいのか。
そういう潔さがなんとも心地よいのです。
それにしてもニールくん、前作でも捜査対象の女の子にポーッとなっていましたよね。
結局きれいな子なら誰でもいいのか・・・などと思っていたら、
注目すべきシーンがありました。
それはニールをよく知る3人の"大人"たちが、ニールについてのことを語り合っているのです。
「ケアリーの場合、意中の女性などというものは存在しません。
心理学的にやつはそういう深い感情を持ちえないのです。」
「君も同じ意見か?」
「ニールが女一般に恨みを抱いてて、信用していないってことならまああたっています。」
「信用してないどころじゃない。ニールは裏切られることを期待している。」
・・・なるほど~、と思いましたね。
彼の母親はつまりヤク中の売春婦だったので・・・。
となればこの度のニールの恋の行方も想像がつくし、
この先の別のストーリーでも同じようなことになるのか・・・と、
ニールが気の毒になってしまった次第。
著者はこんなところでネタバラシをしてしまったわけですが、
それがまるでフーテンの寅さんみたいに惚れっぽくて、
つい人を好きになっては振られるという
彼の「真実」をはっきりさせているのが潔く感じます。
全く、死んでもおかしくなかったニールは、辛くも生き延びましたが、
結局本作でも故国に戻ることはありません。
やはりここでは止められません。
そのうちに続きに行きますね。
「仏陀の鏡への道」ドン・ウィンズロウ 東江一紀訳 創元推理文庫
満足度★★★★☆