映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ビール・ストリートの恋人たち

2019年02月25日 | 映画(は行)

ビール・ストリートは見ていた

* * * * * * * * * *

1970年代ニューヨークのハーレム。
ティッシュ(キキ・レイン)とファニー(ステファン・ジェームス)は、
幼馴染で愛し合っており、仲睦まじく微笑ましい二人。
ところがある日、ファニーは身に覚えのないレイプ犯の罪で逮捕されてしまいます。
その後ティッシュは妊娠していることがわかり、
やりきれない思いに囚われながらも拘置所でガラス越しの面会を繰り返し、
愛を確かめ合う二人・・・。

 

ファニーが逮捕された経緯というのが、
単に一人の警官から気に入らないヤツと目をつけられていただけのようなのです。
こんな理不尽なことがまかり通っていいのかと、義憤に駆られます。

ファニーについた弁護士はまだ駆け出しで経験が浅く、
だからこそ彼も到底ファニーが犯人だとは思えず、
この不当逮捕に怒りを感じどうにかしたいと思います。
しかし、彼の前にはとてつもなく高く分厚い差別の壁がある・・・。
ティッシュの父母と姉は妊娠した彼女を祝福し、なんとかファニーの釈放のために力を尽くしたいと思う。

しかしファニーの母親は狂信的なキリスト教徒で、
ティッシュが結婚もしていないのに妊娠したことを責めるばかり・・・。
この家族の温度差もすごいです。
二人が幼馴染なだけに、ティッシュの家族もファニーのことを子供の頃からよく知っており、
彼が罪など犯すはずがないことを心から信じているのです。
ファニーにとっては、ティッシュの実家の家族のほうがよほど「家族」と思えそうです。
ティッシュの家族たちはギリギリの生活ながら、
なんとか裁判や行方不明になった被害者を探し出す費用を工面しようと必死になります。
そんななかで、ティッシュの母が、レイプ被害者の居所を尋ねる場面があります。
ファニーを犯人だとした証言をなんとか撤回してもらいたいと思ったのです。
彼女は故郷のプエルトリコにいました。
「どうして、プエルトリコに来たの?」とティッシュの母が問うと、
彼女はなんでわからないのかというように答える。
「故郷だからよ!」
そこで母親は黙ってしまいます。


辛いことがあれば逃げ帰るための故郷・・・。
自分にはそんな場所があるのだろうかと彼女は思ったに違いありません。
常にいわれなき差別にさらされ、女は白人男性の視線が怖いし、
男はファニーのように、どんなつまらないきっかけで傷つけられることになるのかわからない。
黒人にとっては全く安全な地ではないその場所。
だけれども、他に行くところはないのです。
そこが故郷なのだから・・・。



近頃流行りの法廷もののテレビドラマなら、1時間足らずで冤罪がはらされるところなのでしょうけれど・・・。
本作はそうはならず、諦めがあるばかり。
このように本作はアフリカ系アメリカ人たちの抱き続ける「諦念」を描き出します。
けれども、ラストシーンを見て思う。
彼らの帰る場所は、「家族」なのだろうと。
土地としての「故郷」はないのかもしれないけれど、彼らには帰るべき「家族」がいる。



つつましく美しいラブストーリーでありながら、
同時に、強く世の「差別」を問うている作品でもあるのです。

 

<シアターキノにて>
「ビール・ストリートの恋人たち」
2018年/アメリカ/119分
監督:バリー・ジェンキンス
原作:ジェームズ・ボールドウィン
出演:キキ・レイン、ステファン・ジェームス、コールマン・ドミンゴ、テヨナ・パリス、マイケル・ビーチ

信頼の置ける恋人度★★★★★
理不尽度★★★★★
満足度★★★★.5