過疎の町で、新たな人の絆の枠組みを考える
向田理髪店 (光文社文庫) | |
奥田 英朗 | |
光文社 |
* * * * * * * * * *
かつては炭鉱で栄えたが、すっかり寂れ、高齢化ばかりが進む北海道苫沢町。
理髪店を営む向田康彦は、札幌で働く息子の「会社を辞めて店を継ぐ」という言葉に戸惑うが…。(表題作)
異国からやってきた花嫁に町民たちは興味津々だが、新郎はお披露目をしたがらなくて―。(「中国からの花嫁」)
過疎の町のさまざまな騒動と人間模様を、温かくユーモラスに描く連作集。
* * * * * * * * * *
北海道の、かつて炭鉱で栄えたが今は財政破綻した過疎の町。
すぐにモデルの地名は思い浮かびますが、まあそれはどうでもよろしい。
似たような町は日本中どこにでもあるでしょう。
そんな過疎の町を舞台とした連作短編集。
そこで理髪店を営む向田康彦の視点で語られます。
彼自身、大学を出てから札幌で仕事を得て暮らしていたのです。
しかし、仕事はうまく行かず、理髪店を営む実家の父が体調を崩したことを機に、
家業を継ぐために苫沢に戻ってきて、以来30年近く理髪店を続けている。
自分は仕事がうまくできなくて逃げてきた・・・という思いが彼にはあるのです。
そんなわけで、札幌で働く息子が「仕事を辞めて店を継ぐ」と、
帰ってきたときには嬉しさよりも戸惑いが先に立ってしまう。
この物語理が髪店主の視点で語られることには意味があるように思います。
この町に理髪店は2軒。
康彦は今の町の人々のことのみならず、この町で生まれ育ちそのまま農家を継いだ者や、
都会へ出た者の子供時代をたいてい知っているのです。
店では様々な人の噂が囁かれるけれども、彼はそれを他の人に言いふらしたりはしない。
そんなところで、町の人々の信頼を得てもいる。
ということで、中国から花嫁をもらった青年、
都会へ出て活躍をしていたはずが犯罪を犯してしまった青年など
話を聞くとついおせっかいを焼きたくなってしまう。
過疎の町なので、個人の家庭の事情など何もかも皆に筒抜けになってしまうという面もあるのですが、
だからこそ皆でなんとか助け合おうという気持ちも生まれる。
都会へと都会へと人が流れる中、こんな暮らしも悪くないと思います。
がそれにしてもコンビニも病院も、ろくな交通機関もないとしたら、
やっぱり考えてしまいますが・・・。
「向田理髪店」奥田英朗 光文社文庫
満足度★★★★☆