映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

リリイ・シュシュのすべて

2012年12月30日 | 映画(ら行)
バーチャルの中でしか本音を晒し出せない



            * * * * * * * * *

 
中2の雄一はかつて親友だった星野からいじめを受けています。
昨年までは、学力優秀な星野を尊敬もし、気兼ねなく話せるいい友人であったのですが・・・。
変貌し、暴力、カツアゲ、窃盗、なんでもありになってしまった星野。
暗い灰色の毎日と感じる雄一ですが、
唯一の救いが歌手リリイ・シュシュの歌でした。
もともと星野に教えてもらった歌手でしたが。
青々とした緑の美しい畑の中で、雄一は一人リリイ・シュシュを聴きます。
体の中に“エーテル”が満たされていきます。
雄一はリリイ・シュシュのファンサイトを運営しますが、
その中で特に“青猫”の言葉に同調を感じ、
“フィリア”として、穏やかな信頼関係が結ばれていきます。
彼になら本音で悩みを打ち明けられる。
そう感じる雄一。
そんなある時、リリイ・シュシュのコンサートがあり・・・


こんな中学生活だったら、なんて生きづらい・・・と、思います。
いじめを受ける側もいじめる方も紙一重。
優秀であり過ぎてもダメだし、モテすぎたりもダメ。
特にあの女子たちの陰湿ないじめにはゾッとさせられます。
無論フィクションですから、かなり誇張されていますが、
揺れる14歳、気持ちの上では常にこんな不安を抱えているのではないかしら・・・と、
ある意味リアルを感じてしまうのです。
少なくとも、こんな状況はいけない、あるべきではないと十分わかっていながらも、
為す術がなく、膝を抱えて座り込んでいるしかない。
そんな閉塞感に満ちた14歳。


さりげない日常描写のストーリーかと思えば、
意外にもショッキングな方向に話が進んでいくのですが、
映像はあくまでも淡々と美しく穏やかです。
そのギャップのため、なんだか眼が離せなくなってしまうのです。
のどかな地方都市で、こんなにも皆心が荒んでしまうのはなぜなのか。
そんな中だからこそ、リリイ・シュシュに心酔をするのだけれど、
それもまた、雄一にとっては生身ではなくバーチャルの世界。
(結局雄一はナマのリリイ・シュシュをみませんよね。)
バーチャルの中でしか本音を晒すことができないという、希薄な人とのつながり。
雄一はそのバーチャル世界こそが真実と思い、それにすがったわけですが
その世界までが崩壊していく時、
もう信じるべきものがありません。
なんて切ないストーリーでしょう・・・


自立して強い久野さんが好きでした。
これくらい強くなければ、いまの世を生きられないのか
・・・と悲しくなりますが。

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「リリイ・シュシュのすべて」
2001年/日本/146分
監督・原作:岩井俊二
出演:市原隼人、恩城修吾、伊藤歩、蒼井優、大沢たかお


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