水にたゆたう私と僕
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きみはなぜ、まぶたを閉じて生きると決めたの――
かつて愛し合い、今は遠く隔てられた「私」と「ぼく」。
消えた産着、優しいじゃんけん、湖上の会話……
十四通の手紙に編み込まれた哀しい秘密に
どこであなたは気づくでしょうか。
小川洋子と堀江敏幸。
二人の作家が互いの言葉に耳を澄ますと、思いもよらぬ謎が浮かび上がる。
こよなく美しく、胸を震わせる小説世界。
唯一無二の作品の執筆過程を振り返る、文庫版のための著者対談を収録。
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小川洋子さんと堀江敏幸さんの共著。
「私」と「僕」がやりとりしている「手紙」という体裁で
物語は進んでいきますが、ちょっと不思議な手触り。
なにしろ、一番初めに「私」は、
「まぶたをずっと閉じたままでいることに決めた」というのです。
それではそもそも手紙などやりとりしようがないではないか・・・
という素朴な疑問を置き去りに、手紙は進んでいきます。
そうしていくと次第に分かってくるのですが、
どうやらこの2人はかつて愛し合っていたけれど、今は離ればなれにいるらしい。
そして「私」は、まぶたを閉じたままでいることを決意とはいうものの、
実際もう、まぶたの開け閉めも難しいほどに
全身が動かない病に冒されているらしい、ということ。
そして手紙の文中に、「水」に関わることが多く出てきます。
この2人が別れることになるきっかけもまた、水と無関係ではないようなのです。
そして、「僕」は・・・。
手紙とは言いながら、これは実際に便せんに書かれたものでも、
切手を貼ってポストに入れられたものでもないようなのですね。
病にある「私」が、内なる自分に語りかけ、
その奥底にたゆたう「僕」の声を拾っているようでもあります。
驚くべきは、この物語は、著者2人が登場人物や話の筋立てを何も相談せずにはじまった、ということ。
それにしては、随所に様々な暗示が潜んでいるようでもあり、
思いがけない結末もあらかじめ用意したようでもあり、感服するばかりです。
「あとは切手を、一枚貼るだけ」小川洋子 堀江敏幸 中公文庫
満足度★★★.5
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