この世界の片隅で、それは常に起こっている
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俳優や監督として活躍するケネス・ブラナーが、
自身の幼少期の体験を投影して描いた自伝的作品です。
その、監督の出身地というのが、北アイルランド、ベルファスト。
9歳の少年、バディはこのベルファストで生まれ育ちました。
1969年8月。
プロテスタントの武装集団がカトリック住民への攻撃を始め、
穏やかだったバディの世界は変容します。
住民すべてが顔なじみで一つの家族のようだった町。
しかしこの日をさかいに人々は分断され、
暴力と隣り合わせの日々となってしまうのです。
こんな中、家族は故郷を離れるか否かの決断を迫られます。
冒頭、いかにものどかな町の様子が一変。
カメラの向きをバディの視点と一致させて周囲を描き出しますが、
それはこれまでバディが見たことも想像したこともない、
大人たちのむき出しの憎悪と暴力の有様でした。
バディが恐れおののく様もありありと描き出されます。
まさに、子どもには見せたくない大人たちの姿。
・・・けれどこれが現実。
バディの一家はプロテスタントではありますが、
特にカトリックへの偏見がある訳ではありません。
バディのお父さんは仕事でロンドンへ出稼ぎに出ていて
家へは2週に一度しか戻って来ません。
でも、戻ってくるなり、カトリックへの攻撃集団から仲間に加わるよう迫られるのです。
そんなだからいっそ家族でロンドンへ移住しようと思うわけなのです。
でもお母さんは、長く住んで馴染んだこの地を離れたくありません。
新しい土地での人間関係が不安だし、
言葉の訛りで差別を受けるかも知れないし・・・。
バディも友だちと離れるのはイヤだし、
何よりもおじいちゃんおばあちゃんと別れることになるのも考えられないこと・・・。
けれど町はいよいよ危険な様相を増してきて・・・。
私、正直なところ北アイルランドのプロテスタントとカトリックの
複雑な事情についてよく分かっていません。
でもそれぞれの主義主張によって人々が分断されているという状況についてはよく分かります。
こんな、殺伐とした世界を本作はモノクロ画面で描いているのです。
ただ、カラーのシーンがちょっとだけあって、
それはバディや家族が映画や舞台を見ているその映画、舞台自体。
それだけがイヤなことを忘れて没頭できる夢の世界。
それはその後の監督自身の進路へと反映されていくことになるということの証し。
69年といえば、アポロ11号が人類初の月面着陸を成し遂げた年。
だから私にも印象深い年なのですが、
そんな時にも地球上のどこかでこんな風に恐ろしい出来事が起こっていたわけですね。
それはその年にかかわらず、いつだって、そして今も同様。
そういうことを忘れずにいたいと思います。
「ベルファスト」
2021年/イギリス/98分
監督・脚本:ケネス・ブラナー
出演:カトリーナ・バルフ、ジュディ・デンチ、ジェイミー・ドーナン、
キアラン・ハインズ、コリン・モーガン、ジュード・ヒル
歴史発掘度★★★★☆
少年の見た紛争度★★★★★
満足度★★★★★
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