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「遠まわりする雛」 米澤穂信

2012年06月02日 | 本(ミステリ)
そういえばミステリでした。恋愛小説のつもりで読んでしまいましたが。

遠まわりする雛 (角川文庫)
米澤 穂信
角川書店(角川グループパブリッシング)


             * * * * * * * * * * 

米澤穂信の<古典部>シリーズ第4作。
ようやく私の目的の本にたどり着きました。
この本は短編集ですが、ホータローの古典部入部直後から1年を、順を追って描いています。


やらなくてもいいことなら、やらない。
やらなければいけないことなら手短に。

これが彼の生活信条ですが、
自らこの信条を破るハメになるのは、常に千反田えるのせい。
季節が移り変わりながら、それぞれのストーリーが語られていきますが、
通してみるとこれは、ホータローのえるに対しての思いの変化を描いているのです。
最初はなんだか"苦手"だった。
彼女の「わたし、気になります」の言葉に、
なぜか魅入られたようになってしまうことに、自分自身がイラついてしまう。
けれど、彼女を理解するに連れ、
ホータローの気持ちがもっと暖かいものに変わっていくんですね。
そこを、著者はありきたりな言葉で表現したりせず、
また、ホータローにも決定的なセリフを吐かせたりはしないのです。
でも、十分に感じられる。
そういうところが、なんだかいい。


古典部の男子、ホータローと里志は、自分の気持ちは否定しないけれど、
まだナニモノでもない自分が、そのことを口にするのはまだ早いと思っているようです。
「手作りチョコレート事件」にはそんな気持ちがしっかり描かれていました。
こういうオトコノコは好きです!


そして、圧巻なのは表題作でありラストでもある「遠まわりする雛」。
地元の祭事で、えるが十二単をまとい、生き雛となって町を練り歩くのです。
急な人手不足で彼女に傘をさしかけて、ついて歩くことになったホータロー。
いやはや、なんとも見物ですね。
お化粧をして、十二単で伏し目がちに歩むえるを見た時、ホータローは思うのです。


これは良くないな、と。
こういう装いは良くない。
しまった。
たぶん、なんとしても、俺はここに来るべきではなかった。



そんなことを言いながら、彼は役目柄えるの後ろ姿しか見えないことに苛立ったりもするのです。
いやあ・・・やりますね。


・・・さて、皆さん、ここまで読むとこの本は恋愛小説なのかと思うかも知れませんが、
そうではなくて、これはれっきとしたミステリです。
ちゃんとそれぞれの短編の中に謎とその答えがあるのですけれど・・・、
私はすっかり恋愛小説として読んでしまいました!!
一番ラストに二人で、進路の話をするシーンがあるのですが、
ここもなかなか良いですよ。
省エネ少年もちゃんと青春してますねえ。


それから、今作には温泉につかって湯あたりで目を回すホータロー、
などというシーンもありまして・・・。
いつもしらけムードのホータローの、
結構意外な部分を垣間見る今作、トクマルのおススメ。
けれどやはり第一作目から読むべきです。


さて、幸いなことに第五弾もすでに出ていますので、そちらもぜひ読まなければ・・・。


「遠まわりする雛」米澤穂信 角川文庫
満足度★★★★★


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