原作をうまく整理した脚本の勝利
* * * * * * * * * * * *
直木賞・本屋大賞ダブル受賞となった「蜜蜂と遠雷」が原作。
私ももちろん読んでいて、まだ記憶も新しいところ。
実のところ、予告編を見てこれは失敗なのでは?と思っていたのです。
というのも、いきなり超絶技巧の激しい曲が使われていて、「やり過ぎ感」を覚えてしまったので。
でもこのたび、他にタイミングよく見られる作品がなかったので、一応見てみることに。
しかし、予告編のあまりよくない印象は払拭されました!!
芳ヶ江国際ピアノコンクールに挑む4名の若者たちに焦点を絞り、
その経過と彼らの音楽へ対する思いを描きます。
母の死をきっかけにピアノが弾けなくなった、かつての天才少女・亜夜(松岡茉優)は、
7年のブランクの後、初めてのコンクールに挑みます。
楽器店で働き、妻子もいる、コンクール年齢ギリギリの高島(松坂桃李)。
今回ダメならばピアノの道は断念する覚悟です。
名門ジュリアード音楽院在籍中、優勝候補のマサル(森崎ウィン)。
子供の頃、亜夜と幼なじみでもありました。
謎のお日様少年、塵(鈴鹿央士)。
天衣無縫かつ底知れない才能を秘めたこの少年に、皆は触発されていきます。
原作はかなりのボリュームがあるのですが、
本作はうまくそこを整理したストーリーになっていると思いました。
登場人物もコンテスタント4名に的を絞り、
予選も本当はもっといろいろ何度も複雑にあるのです。
落ち込み、道を見失いそうになる亜夜を他の3人がそれぞれの場面で励まし、
インスピレーションを与えていく場面が描かれているのがよかった。
中でも、宮沢賢治「春と修羅」のカデンツァが、
4人分全部紹介されているのが素晴らしかった・・・。
つまり、コンテスタントがそれぞれのイメージで自由に作曲して演奏せよ、ということなんです。
原作は文章だけで、私たちの心に音楽を呼び起こすことで話題になったのですが、
曲名は実在の曲なので、実際に聞こうと思えば聞くことはできます。
けれどここの部分だけは、実在しない訳なので、聞くことができません。
そこを本作中では本当に聞くことができる。
わざわざ本作のために4人分作曲したわけですよね・・・!
すごい!!
この、宮沢賢治の亡き妹への思いに満ちた心情、「あめゆじゅ」のエピソード自体、
私もとても思い入れがあるところなので、ここを取り入れてくれた脚本には大満足です。
そしてラストにいよいよ亜夜の熱演が来る。
これですよ。
ここまで抑え気味に来て最後に盛り上がる。
だからこそ感動がこみ上げてくる。
予告編では分量は少ないけれど、この盛り上がりの曲を使ってしまった
と言うのが間違いだったように思います。
結局大満足。
音楽を、そして感動をありがとう!と言いたいですね。
風間塵役の鈴鹿央士さんは新人で19歳・・・え?
童顔ですよね。
中学生くらいにしか見えない。
これから活躍しそうです。
<シネマフロンティアにて>
「蜜蜂と遠雷」
2019年/日本/119分
監督:石川慶
原作:恩田陸
出演:松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士
音楽度★★★★★
原作イメージ再現度★★★★☆
満足度★★★★★
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます