映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

皮膚を売った男

2022年04月02日 | 映画(は行)

背中のタトゥーが、高額な芸術品

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2011年、シリア。

内戦の続くシリアから脱出し、難民となったサム。
そんな彼に、現代アートの巨匠から、ある提案があります。
彼の背中にタトゥーを施し、彼自身が芸術作品になれというのです。
大金と自由を手に入れる代わりに、
背中にタトゥーを施し、アート作品となったサムは、高額で取引される身となります。
売買されて国境を越え、ベルギーへ入国したサム。
そこでサムは恋人に会いに行きますが・・・。

背中のタトゥーを芸術作品とした、という実話を元にしているそうです。
ここでの芸術家の意図は、
「商品なら自由に各国を行き来できるのに、人間はできない」
という理不尽な現実をアピールするもの。
だからサムのタトゥーはビザの図案なのです。
現代アートとしては確かにインパクトがあり、
その主張にも意義があるように思えます。

でも、問題なのはそれが心を持った生身の人間であるということ。
サムは元々気が進まないながらも、
離ればなれになってしまった恋人に会いたい一心でタトゥーを受け入れたのです。

サムは美術館の「展示物」として一日中じっとすわっていなければなりません。
人々の好奇の目にさらされながら・・・。

時間外には拘束されるわけではないので、恋人を探し当て会いに行くこともできるのですが・・・。
なんと彼女は結婚していて・・・。
踏んだり蹴ったり。

故郷シリアの家族とはSNSで会話をすることはできるし、
彼が得たお金を送金もできました。
でも、内戦中の故郷では安全な生活は望めず、大変な事態になっていたのに、
自分は助けることもできません。
こんな状態が「自由」であるはずがない。

終盤、サムは美術品の競売にかけられることになります。
背中のタトゥーを晒し、うずくまるサム。
そしてそれに値をつけていく資産家たち。
この図は、まさに奴隷売買そのもので、ぞっとさせられます。

けれどサムはついにそこで一つの意趣返しをする。

なんとも色々、考えさせられる作品です。

 

<映画.comにて>

「皮膚を売った男」

2020年/チェニジア、フランス、ベルギー、スウェーデン、ドイツ、カタール、サウジアラビア/104分

監督・脚本:カウテール・ベン・ハニア

出演:ヤヤ・マヘイニ、ディア・リアン、ケーン・デ・ボーウ、ミニカ・ベルッチ、サード・ロスタン

 

現代社会を考える度★★★★★

満足度★★★★☆

 



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