凸凹デイズ (文春文庫 や 42-1) 山本 幸久 文藝春秋 このアイテムの詳細を見る |
「笑う招き猫」で、ユーモアたっぷりに、
お笑いの世界で働く元気な女性の姿を描いてくれた山本幸久。
今度の舞台はデザイン事務所。
その名も「凹(ぼこ)組」
とはいえ、図体が大きな30半ばの二人、大滝・黒川と、
主人公凪海(なみ)、たった三人の弱小事務所。
それも1DKのアパート。
仕事はハードで給料は安い。
それでも、凪海はやりがいを持って仕事に励んでいたわけですが。
しょぼい仕事ばかりのこの事務所に
あるとき、老舗遊園地のリニューアルデザインコンペという大きなチャンスがやってくる。
登場人物の個性がそれぞれに豊かで楽しい。
舞台は、時折10年前、この「凹組」結成当時の話に戻ります。
「ゴッサム・シティ」という名の事務所にいた大滝と黒川。
そして醐宮(ごみや)という女性。
若い彼らがゴッサム・シティを去り、凹組立ち上げるいきさつ。
これもまたなかなかの青春物語。
なぜ「凹組」なのか。
それは大柄な大滝と黒川、その間に醐宮が立つと
見事に凹の字型になるからなのでした。
しかし、この3人組はわずか10ヶ月しか持たず、醐宮が去ってしまっている。
そこには複雑な事情がありそうなのですが・・・。
凪海も小柄のほうなので、今も名実共に凹組。
そこへ、今は大手のデザイン事務所を立ち上げている醐宮が絡んでくる。
錯綜する二つの青春。
醐宮さんはなかなか強烈なキャラクターです。
常に自分を奮い立たせ、前進しようとする。
仕事のためには、自分の女としての魅力も武器にするし、
人の手柄を横取りするようなずるさをも見せる。
彼女には大滝と黒川がもどかしくてならない。
いい腕を持っていながら、どうしてこんなしょぼい仕事で満足していられるのか・・・。
今時の女性ですよね。
仕事に打ち込む活き活きとした女性像と
ギラギラとした意欲ばかりが目に付くいやな女と、
そのぎりぎりの線のように思います。
しかし、決して人に寄りかからない。
こういうところは魅力です。
この作品は、このように大人の男女が毎日共に仕事をしつつも、
恋愛沙汰に発展しない。
(ほのかな思いをにおわせる部分はありますが)
そんなところがとても潔くて好感触。
巻末の解説で三浦しをん氏がいっています。
働くことを通して得られる本当の楽しさは
「だれかとつながる」ことなのだろうと。
その通りですね。
働くこととは誰かとつながること。
自分ひとりではなくて、いろいろな人とつながることが、
生きているということなのでしょう。
あ~、今日は仕事サボって、どこかへ行っちゃいたい
・・・なんて時々思いますが、
仕事にはお金を得ることだけでなく、また別の大切な意味があるわけですね。
時々はそれを思い出すことにしましょう・・・。
満足度★★★★☆
とても素敵な青春小説として読みました。
働くこととは誰かとつながること。
若いときは、人と繋がるのもうれしくて楽しい。
おじさんになってからは、今更人付き合いの為に自分を変えるのも面倒でこもりがちです。偏屈になっているのかな?
日本人の少ない小さなコミュニティで駐在して居た友人の言葉。
「いい人をやって無いと生きて行けない。」
我がまま言って生きていける強い人になりたい!と思ったり。
この著者は、今のところちょっと注目している作家です。
お楽しみいただけたら幸いです。
>今更人付き合いの為に自分を変えるのも面倒
たしかに、私もそう思います。
でも、ときどき、頑張っている人の話を聞いたりすると、すごく自分の励みになることがあります。
人とのつながりって、ある意味「財産」なんだなあ・・・と、思うこともあり。
やっぱり私にとっては、「働くことは、誰かとつながること」かな?