映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「清浄島」河﨑秋子

2023年10月07日 | 本(その他)

忌まわしい病があった島

 

 

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北の海に浮かぶ美しい孤島にキツネが運んだ寄生虫「エキノコックス」。
それは「呪い」と恐れられる病を生んだ。
未知の感染症に挑む、若き研究者の闘いが始まる――

直木賞候補作『絞め殺しの樹』で注目の著者による、
果てなき暗路に希望を灯す渾身の傑作長編

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礼文等島は、北海道でも私の憧れの地、花の浮島といわれる美しい島です。

こんな島にも、忌まわしい過去があって・・・。
私も聞いたことはあったのですが、詳しくは知りませんでした。
同じ北海道の話というのに、情けない。

 

昭和29年。
1人の青年が北海道立衛生研究所から派遣されて、礼文島にやって来ます。
この島に蔓延していると思われる「エキノコックス」の調査のため。

このときすでに、エキノコックスという寄生虫が起こす病の仕組みは解明されていました。
日本ではこの礼文島だけで起こるこの病の具体的な感染経路を突き止め、
それを予防するための処置を考えることが目的なのです。

やがて多くの研究員も派遣され、大がかりな調査が行われた上で
決定された重大な決断とは・・・!?

 

以前、この島で起こった山火事で森が丸裸となり、
新たに苗木を植えたところ、それが格好の餌となって野ネズミが急増。
これではいくら苗を植えても、木は育ちません。
そこで、狐をこの島に連れてきて、野ネズミを減らすことを考える・・・。
しかし、狐は大きな災いをもこの島に呼び込んだということのようです。

エキノコックス撲滅のために思い切った策がとられた礼文島。
それは10年以上もの時をかけてようやく終息宣言に至るのですが、
しかし、その時にはまた別ルートで
道東方面でエキノコックスが広まってしまっていた・・・。

 

つまりエキノコックスを宿していた狐というのは千島列島方面からやって来たらしいのです。
毛皮をとるために、そちらから狐を連れてきて繁殖させていた例があるし、
流氷で地続きになってしまう期間があって、
そこから狐が渡ってきたことも考えられる・・・。

礼文島という小さな範囲でできた対策も、広い北海道全体ではムリ・・・。

 

かくして、現在もエキノコックスの脅威はなくなっておらず、
私は散歩でキイチゴ類の実を見つけても、
写真は撮るけれど決して口にしないと決めている次第・・・。
(持って帰って加熱してジャムなどにすればOKですけどね。)

 

・・・というようなことは、本作の物語中で徐々に語られて行きます。
主人公、土橋がどのように閉鎖的な島の人々と交流していったのか、
そしてどのように憎まれつつも任務を果たしていったのかというようなことが、語られて行きます。

 

いつもながら、河﨑秋子さんの北海道に住む人々と動物や歴史・風土を絡めた物語、
北海道人としては知っておくべきことばかり。
とても興味深く読みました。

歴史短い北海道とは言え、すでに良くも悪くも様々な歴史が積み重なって
今に至っているのだなあ・・・と、今さらながら思います。

「清浄島」河﨑秋子 双葉社

満足度★★★★☆

 



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