過去は重荷か、財産か
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ジョージア、トリビシの旧市街の片隅。
作家のエレネ79歳は彼女が生まれ育ったこの家で、娘夫婦と暮らしています。
娘は、姑(夫の母)ミランダにアルツハイマーの症状が出始めたので、
この家に呼んで一緒に暮らすと言います。
ミランダはジョージアのソビエト時代に政府の高官として働いており、
エレネにとってはあまり歓迎したくない相手だったのですが・・・。
そんなエレネの79歳の誕生日、
かつての恋人アルチルから十数年ぶりに電話がかかってきます。
アルチルは車椅子生活。
エレネも足が悪く外出はできません。
電話だけで交流が復活した二人。
本作には、かつてソ連に飲み込まれ支配されていた
ジョージアの歴史が大きく関わっています。
エレネやアルチルは、まさにそのようなつらい時代のまっただ中を生きてきたのです。
そこへかつての支配国の役人だったミランダがやってくる。
彼女は彼女でそのころの自分が「正義」であるとことを今も信じていて、
周囲に悪びれることもない。
アルツハイマーの彼女は、むしろその頃の彼女の意識に退行しているようですらある。
そんなわけで、平和な日々の中でほとんど忘れていた過去を、
逆に思い起こしてしまうエレネ。
エレネは言います。
過去は重荷なのか、財産なのか。
さて、ここで題名の「金の糸」の意味なのですが、
これは日本の陶器の修復技法「金継ぎ」のこと。
そもそも本作は「金継ぎ」から着想を得た作品とのことです。
古く、割れてしまった陶器を金で継ぎ合わせる。
その継ぎ合わせた線がまた新たな美を生み出すということなんですね。
過去の重荷、傷跡もやがては修復し、
財産に変えていくことができるということなのかもしれません。
若かりしエレネとアルチルの路上でタンゴを踊るシーンが、
たまらなく郷愁を呼び起こします。
そしてまた、老人ばかりが登場する本作で、
未来を感じさせるのがエレネのひ孫に当たる少女の存在。
やはり子供はいいなあ・・・。
ジョージアというあまりなじみのない国の物語ですが、
そこに住む人々の感情がいたいくらいによく分かりました。
日本もかつてつらく悲しい時代があって・・・、
つまりはどこの国にもそういうことを乗り越えてきた人々がいるのでしょう。
だからわかり合える。
ステキな作品でした。
<WOWOW視聴にて>
「金の糸」
2019年/ジョージア・フランス/91分
監督・脚本:ラナ・ゴゴベリゼ
出演:ナナ・ジョルジヤゼ、グランダ・ガブニア、ズラ・キプシゼ、ダト・クビルツハリア
過去の重み度★★★★☆
満足度★★★★☆
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