一方的な視点にとらわれずに
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われわれが生きるこの国のいまは、どこから繋がり、どこに向かっていくのだろうか?
鎖国政策、幕末の動乱、大陸政策から現代社会に至るまで、
アジアはもちろん様々な国々と民族からの刺激を受けつつ、
「日本人」たちは自国の歴史を紡いできたが―。
「唯一無二の正解」を捨て、新たな角度で自分の故郷を再度見つめる。
やわらかで温かな日本史ガイド・待望の近現代史篇!
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小島剛氏の日本史ガイド。
「父が子に語る」べき話を、いい年した私が読むのはお恥ずかしい限りではありますが、
昔教科書で習った以上のことをあまり考えてみたこともないので、
初心に返って改めて学習してみましょう、という気になりました。
著者は、古来から「日本」が「日本」のままで今まであり続けたことに、
日本人は「だから日本は特別だ」とか「だから日本はすごいんだ」
というような意識を持っているといいます。
けれど、そうではない。
国の成り立ちはその国それぞれ。
こんな自己満足的な考え方でなく、
「日本の歴史を学ぶことは外国と付き合う場合にこそ大事」だといいます。
確かに、これから海外の国と関係を築いていく若い人こそ、本巻を読むべきだなあ・・・と納得します。
そして頭の堅くなった年寄りも。
本巻には、私たちにははっとさせられることがいろいろ書いてあります。
「吉田松陰・久坂玄瑞・坂本龍馬」そして「井伊直弼・近藤勇・篠田儀三郎」
この人たちの違いがわかるでしょうか?
前者が靖国神社に祀られている人、後者が祀られていない人。
日本という国を近代化するために犠牲となった人々でありながら、
政治的立場が異なるということで差別されているわけです。
(注・篠田儀三郎は、白虎隊の一員)
それから、著者は司馬遼太郎「坂の上の雲」についても多く触れています。
この本のために、日本人に誤った歴史観が根付いてしまった・・・と。
「坂の上の雲」には朝鮮についての叙述がほとんどない、というのです。
日清・日露戦争は結局のところ日本の朝鮮支配をより確実にするものであったのに、
そのことにほとんど触れられていないのは誤りだ・・・と、なかなか手厳しい。
「耳にしたくない話」を避けてはいけないということです。
私、「坂の上の雲」はまだ全部読んでいないのですが(途中で挫折しかけている)、
確かに朝鮮のことはほとんど書かれていませんでした。
何事も一方的にだけ見るのはダメ、いろいろな視点から考えなければ・・・
という見本のような話です。
そんなわけで、今までとはちがった視点から歴史を考える、良い示唆となった本です。
本巻の前段にあたる「父が子に語る日本史」の方も、是非読んでみたいと思います。
ところで皆さん、本巻の題名「父が子に語る」というところで
「子」を男子、つまり「息子」という連想をしなかったでしょうか。
実は私もそうなのですが、著者は自身の「娘」さんを念頭に置いて書いたそうですよ。
でも刊行直後の各種紹介文には「著者が息子に向かって語りかけ」云々と書かれたそうです。
ほとんど無意識のジェンダー偏見。
日頃ジェンダー問題には敏感なはずの私でもそうなのですから、
すごく根深いものがあります・・・。
よほど心しないとこうした偏見はなくなりそうもありません・・・。
「父が子に語る近現代史」小島剛 ちくま文庫
満足度★★★★☆
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