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「わたしたちはどこから来てどこへ行くのか?/科学が語る人間の意味」佐倉 統

2011年07月15日 | 本(解説)
石器時代の遺伝子との共存

わたしたちはどこから来てどこへ行くのか? - 科学が語る人間の意味 (中公文庫)
佐倉統・木野鳥乎
中央公論新社


               * * * * * * * *

この本は、進化生物学の立場から人間・社会・環境のゆくえを考えたものです。
「構造主義」ではつまずいた私ですが、
懲りずにまた生きる意味をさぐってみました。

著者は「チンパンジーの社会生態学」で理学博士号を取得した方。
私とは何か、ひとはなぜ生きるのか・・・。
この本、特にジュニア向けとは描いてありませんが、
ほとんどそれくらいを意識したかと思わせる平素な語り口で、
非常に分かりやすく書いてあります。
そしてまた木野鳥乎さんの素朴でほんのりしたイラストが楽しい。
これこれ、これですよ。
こういう本を求めていたのです。

少し内容をご紹介しましょう。


私たちが生きるのに重要な意味が2つあります。
1つは遺伝子。
これこそが生物が「生きる」理由。
あらゆる生き物は遺伝子を残すために生きている。

しかし「人間」はもう一つ重要なモノを次の時代に伝える役割がある。
それを「ミーム」と著者はいっています。
聞き慣れない言葉ですが、
ミームとは文化情報の伝達の単位のこと。
文化といっても芸術やスポーツだけでなく、
食文化、生活習慣、伝統など、幅広くさまざまなもの。
教育と学習によって世代を超えて受け継がれて行くもの。
なるほど、これこそが「人間」であることの意味なのでしょう。
つまりこれは私たちの脳が非常に発達したということなのですが、
それと引き替えに他の動物なら悩まずに済んだことも悩んでしまうことになった。
「私が死んでも地球は回るのね・・・」とか
「死ぬのが怖い」とか。

遺伝子にとっては、早く次の世代に映って欲しいところなのに、
脳が「死ぬのがイヤ」だといっている。
困りましたね・・・。
死ぬと、何も起こらないのだけれど、その人の「なごり」が残るのです。
その「なごり」こそがミーム。
私たちが死んでも、私たちの「ミーム」は生き延びる。
ここが重要です!


さて、私たち人間の遺伝子は
今から何万年か前の環境―石器時代の環境―に適応していたといわれています。
けれど、どんどん生活環境が変化した今、
私たちの遺伝子は現代の環境に適していないと著者はいいます。
それはまるで自転車で高速道路を走っているようなもの。
遺伝子と環境のズレの例としては、肥満やアレルギーなど・・・。
また、時計にあわせた生活はストレスを産む・・・。

これからの私たちの課題は、遺伝子とミームをどうやって共存させていくか。
遺伝子が何百世代も何万年も必要とする進化を、
人間はミームによってほんの数世代、数年で進化できる。
私たちは自転車で高速道路を走ることを止めることはできないけれど、
いろいろな工夫をすることはできる。
できるだけ脇の方を走るとか、
ヘルメットをかぶるとか・・・。
そう言われればちょっぴり勇気もわいてきますね。
なるほど、どうして私たちはこんなに生きにくいのか。
つまりはそういう秘密が隠されていたというわけです。

科学者が生きる意味を語る。いい本でした。

「わたしたちはどこから来てどこへ行くのか?/科学が語る人間の意味」佐倉 統
満足度★★★★★


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