映画と本の『たんぽぽ館』

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百花

2022年09月22日 | 映画(は行)

母との絆とは、記憶とは・・・

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川村元気さん原作で、この度の監督も務めています。

 

レコード会社に勤務する葛西泉(菅田将暉)。
母・百合子(原田美枝子)は一人暮らしでピアノ教室を営んでいますが、
泉はときおり母の様子を見に寄る程度。

そんなある日、百合子が認知症を発症。
次第に症状は進み、一人暮らしも難しくなり施設に入居。
だんだん息子である泉のこともわからないくらいになっていきます。

そんな頃に、泉は百合子の部屋で1冊のノートを見つけます。
そこには、泉が決して忘れることのできない出来事の真相が・・・。

 

泉は結婚していて、妻・香織(長澤まさみ)は、妊娠中。
その香織は以前から泉とその母の関係性に、なにかヘンものを感じていたといいます。

泉は妻にもこれまで話したことがなかったのですが、
泉には生まれたときから父親はいなくて、
小学生の時に、一年ほど母親がいなくなっていたことがあったというのです。
どうも好きな男と生活していたらしい・・・、
それが母親のノートで明らかになったのです。
そんな母親の生臭い事実を知ってしまったら、さすがにショックですよね。

けれど、自分のことも、そんな過去の色恋沙汰も、
今の母の記憶からはすっかり抜け落ちているらしい。
泉は何もかも無意味なようで、気落ちしてしまうのです。
母にとって自分とはいったい何だったのだろう・・・。

もうすぐ子供が生まれて親になろうとしている自分ですが、
そのことにすら自信を持てないでいるのです。

さて、ある時ほとんど記憶も薄れかけている母が
「半分の花火」が見たい、というのです。
ネットで調べて、それが実在することを知り、
泉は母をその花火大会に連れて行きます。

これは、諏訪湖の湖上花火というものらしいです。
それは確かに美しい。
でも、本当に母が見たかったのはそれではなかった、
という所に本作の感動が待ち受けているわけです。

 

本作、1シーン1カットという手法で撮られています。
特に、母・百合子の記憶の混濁や意識の迷走を描くときに、
この手法が実に効果的に思えました。
私たちもひととき、百合子の不思議な「認知」の世界に
共にいるような感覚を受けます。

いろいろなことを忘れないようにと、母が書き残した何枚ものメモ用紙を泉が見つける。
どんなにか心細く不安だったでしょう、
そういう母の心境を思い計るのも、切ない、切ない・・・。

<シネマフロンティアにて>

「百花」

2022年/日本/104分

監督・原作:川村元気

出演:菅田将暉、原田美枝子、長澤まさみ、北村有起哉、岡山天音、永瀬正敏

 

記憶混迷度★★★★☆

満足度★★★★☆

 



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