気がついたらそこにある、ささやかな幸せ
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北陸の小さな町に一人の男・山田(松山ケンイチ)がやって来ます。
彼は小さな塩から工場で働くことになり、
社長から紹介された古い安アパート「ハイツムコリッタ」で暮らし始めます。
(名前だけ聞くと豪華ですが、平屋で、つまりは長屋みたいな家。)
すると隣の部屋の島田(ムロツヨシ)が、「風呂を貸してほしい」と、訪ねてきます。
なるべく人と関わらず、静かに暮らしたいと思っていた山田ですが、
少しずつ島田や、その他、近所の住人達とも気心が知れて、親しくなっていきます。
ということで、特に大きな事件が起こるわけではありません。
毎日毎日単調なイカをさばく仕事をし、
決まった時間に帰宅して、お風呂に入ってご飯を食べて・・・
そんな日々が続くのです。
さてしかし、実は山田は元受刑者。
刑期を終え、出所してこの町にやって来たのです。
だからこそ、こんな地味な生活にも不満をもつでもなく淡々と生きているようでもある。
そんな彼の元に、彼の父親の死の知らせが入ります。
孤独死して、しばらくして異臭で近所の人が気づいたという。
しかも父親とはいえ、山田が小さな時に別れたきりで、
その後の消息も全く知らなかった。
こんな男の遺骨を引き取る必要があるのか・・・?
考えてしまう山田。
そんな山田の背中を押すのが島田です。
自らをミニマリストという彼。
山田の部屋に風呂を借りに来て、いつの間にかご飯まで食べに通っている、
つまりはただのケチな貧乏人のようでもありますが、
小さな菜園で作る野菜を惜しみもなく分けてくれる。
お骨はちゃんと引き取らなきゃダメだとのお節介も。
ちょっと変人だけど、まっとうでいい人なのです。
なんともユニークな人物です。
ところで、題名やアパート名となっている「ムコリッタ」は、仏教の時間の単位の一つ。
一日の30分の一、すなわち48分が1ムコリッタになります。
仏教用語ではささやかな幸せの意味を持ちます。
そしてこの町に流れる川。
川は彼岸と此岸があって、生と死を隔てる境界の意味も持っていますね。
山田の父が亡くなったこと。
おなじ住民の溝口(吉岡秀隆)が墓石のセールスをしていたり、
大家の南(満島ひかり)の夫が若くして亡くなっていたり・・・と、
死はとても身近にあるのです。
そしてまた、彼らの生活はギリギリで、食べることに困ることもあったりする。
すなわちとても「死」に近い場所であったりする。
そんな場所の彼らの生活の中でも、
ほんのささやかな幸せがあってもいいし、求めてもいい。
例えば、おかずは塩からだけだとしてもおいしくご飯が食べられて、
一言二言でも言葉を交わす相手がいて・・・
そんなささやかな幸せでも人は十分生きる力にすることができるのではないか・・・。
私たちは多くを望みすぎているのかも知れません。
荻上直子さん作品にもれなく、食事がとってもおいしそうなのですよね。
全然豪華なものではないのに。
ただのキュウリすらも、味噌をつけて丸かじりがなんともおいしそう。
塩辛をのせたご飯が無性に食べたくなります。
<シネマフロンティアにて>
「川っぺりムコリッタ」
2021年/日本/120分
監督・原作・脚本:荻上直子
出演:松山ケンイチ、ムロツヨシ、満島ひかり、江口のりこ、柄本佑、吉岡秀隆
ささやかな生活度★★★★★
満足度★★★★★
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