心の旅
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サリー・ポッター監督が自身の弟を介護した経験を元にした作品とのこと。
ニューヨークのアパートで一人暮らしをしているメキシコ移民の作家レオ(ハビエル・バルデム)。
認知症を発症しています。
アメリカ人の妻とは別れていて、娘・モリー(エル・ファニング)が時々様子を見にやって来ます。
けれど今はもう、モリーやヘルパーとの意思疎通も困難な様子。
ある朝、モリーがレオを病院に連れて行くためにアパートを訪れます。
レオはモリーと行動を共にしながら、
初恋の女性と出会った故郷メキシコや、
作家生活に行き詰まって一人旅をしたギリシャへと、
心の旅を繰り広げています。
本作は、その認知症の父の抱く旅の幻想と、
その父を連れ歩く娘の現実が交互に描かれているのです。
ハビエル・バルデムとエル・ファニングが親子、
というのはどうも違和感があるのですが、
父がメキシコ移民ということで、ちょっと納得。
しかし、今はわびしい一人暮らしのレオ。
住んでいる部屋のすぐ脇を電車が通っていて、
かなり部屋代の安いところなのだろうと想像が付きます。
本当はもう故郷に帰りたいのかも知れない。
けれど今さら戻れない。
さみしさを訴えようにも、もうそれをきちんと伝えられるほどに頭脳が働かない・・・。
だから彼は、娘に引き回されながら一人白昼夢を見ているのです。
こんな風に夢を見ているかのように日々が過ぎるならば、
それも悪くはないのかも、などと思ってしまいます。
心がここにない相手の世話をするのは、やはり大変ですけれど。
父は小説を書くことばかりに熱心で、モリーはあまりかまってもらった記憶もないのだけれど、
それでもやっぱり父親が大好きなんですね。
認知症の父は思うように動いてくれないし、シモの始末までしなくてはならない。
こちらの言うことも分かっているのかどうなのか・・・。
結局その日一日が父のために潰れてしまい、大きな仕事のチャンスも逃してしまいます。
もう投げ出してしまいたくなりはするものの、それでもなお、
父を父として受け入れる、愛に満ちた度量の広さ。
父と娘の絆。
そしてまた、ギリシャをさまようレオは、観光に来ていた若い女性が気になって、
その娘の後を追い始めます。
現実ならストーカーじみて気味悪いですが、あくまでもレオの脳内風景。
つまりその若い娘はモリーなんですね。
理論が破綻したレオの中で、やはり自分の娘モリーを探し求めている。
まだ彼の中に、わが娘への愛情が残っているのです。
美しい作品だと思います。
レオの窓の外をひっきりなしに電車が通り過ぎます。
まるでその部屋自体が動いているように錯覚する瞬間があって、
レオの心の旅のことを表わしているようでもありました。
<WOWOW視聴にて>
「選ばなかったみち」
2020年/イギリス・アメリカ/86分
監督・脚本:サリー・ポッター
出演:ハビエル・バルデム、エル・ファニング、ローラ・リニー、サルマ・ハエック
父と娘の絆度★★★★☆
認知症表現度★★★★★
満足度★★★★☆
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