映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ゼロの未来

2015年12月03日 | 映画(さ行)
結局は一人では生きられない「私たち」



* * * * * * * * * *

コンピューターに支配された近未来が舞台。
・・・と言うと無機質にチリひとつない街や室内の様子を思い浮かべてしまいますが、
本作はそうではありません。
テリー・ギリアム監督が日本の秋葉原にインスパイアされたというだけあって、
色彩てんこ盛りで猥雑。
そうですよね、どんなにテクノロジーが進化しても
人々はやはりあまりにも洗練された環境にはなじめないでしょう。



さて本作、設定自体が不可思議で謎めいていているのですが、
不思議に惹きつけられます。
天才プログラマーのコーエン(クリストフ・ヴァルツ)は、少し心を病んでいます。
自分を「私たち」と複数で呼び、
人に触れられることを嫌い、孤独を好みます。
そんな彼は教会の廃墟にひきこもり、ひたすら「ゼロの定理」を解析しようとする。
そのPCディスプレイの映像は、まるでテレビゲームのよう。
しかしその作業は難解の上に難解、
孤高の天才の彼を持ってしても解析は進まない。
苛立つ彼はハンマーでマシンを打ち壊してしまいますが・・・。
そんな人嫌いの彼が、ある女性に心惹かれたり、
これも天才の少年と心を通わせるようになるにつれて、
「人間」らしさを取り戻してゆく・・・。





なんだかよくわからない作品だと思ったのですが、
こうしてストーリーを書いてみると案外シンプルな話だったのだな、
と今更気が付きました。
とは言え、コーエンが自分を「私たち」と呼ぶのはつまり、
ITや国家に管理・支配される私たちそのもののことを暗喩しているのだろうとか、
コーエンが待ちつづけている「電話」の意味とか・・・
いろいろと興味深い点はあります。
そして人と関わりたくないコーエンが、ボブ少年をマネてピザを取ってみたり、
奇天烈なスーツを身に着けてベインズリーとアクセスしようとするように変わっていく辺りが、
ちょっと微笑ましかったりします。



世界は結局ゼロ=無・・・などという崇高なテーマを言っているようで、
意外と細部は庶民的で猥雑。
そこがテリー・ギリアム監督らしさでしょうか。
だからよく意味がわからなくてもなんだか面白かった。
変に煙にまかれたような気がしない所が良いです。
なんだかマット・デイモンに似ているなーと思った人物が、
本当にマット・デイモンだったりしたのでびっくり!!

クリストフ・ヴァルツは007に出てくる人物より
こちらのスキンヘッドのほうが個性的で、演技にも幅があるように思えます。



ゼロの未来 [DVD]
クリストフ・ヴァルツ,デヴィッド・シューリス,メラニー・ティエリー,ルーカス・ヘッジズ
Happinet(SB)(D)


「ゼロの未来」
2013年/行きリス・ルーマニア・フランス・アメリカ/107分
監督:テリー・ギリアム
出演:クリストフ・ヴァルツ、デビッド・シューリス、メラニー・ティエリー、ルーカス・ヘッジス、マット・デイモン

近未来度★★★★☆
満足度★★★★☆


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