映画と本の『たんぽぽ館』

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30年後の同窓会

2018年07月06日 | 映画(さ行)

ユーモアを交えながらも骨太のロードムービー

* * * * * * * * * *

本作は、情けない男たちが久しぶりに会っておバカな旅をするロードムービーかと思っていたのですが、
よく見たら、リチャード・リンクレイター監督作品。
ただ面白おかしいだけのはずがありません。
ユーモアを交えながらも、なかなか骨太の作品でありました。

男一人でバーを営むサル(ブライアン・クランストン)と
過去を捨て牧師となったミューラー(ローレンス・フィッシュバーン)のもとに、
旧友の“ドク”(スティーブ・カレル)が訪ねてきます。
彼らはかつてのベトナム戦争での戦友でした。
ドクは一年前に妻に先立たれ、
そして2日前にイラク戦争で息子が戦死したことを二人に打ち明けます。
そして、息子の葬儀に付き添ってほしいというのです。
ドクには“借り”があると思っている二人は承諾し、30年ぶりに会った3人の旅が始まります。



軍ではドクの息子を「英雄」として葬儀を行い軍の共同墓地に埋葬しようとしていました。
しかしドクは息子の死の際の出来事を聞き、
決して戦闘中の「名誉の死」などではないことを知ってしまいます。
そこで、息子の遺体を故郷の自宅まで連れ帰り、妻の墓の隣に埋葬しようと考えたのです。
またさらに3人の長い旅が始まります。

妻をなくしたばかりで、おまけに一人息子の死・・・と考えると
本当に、気の毒で胸がふさがりそうになります。
戦闘中に亡くなったというのならまだしも、日常の何気ない生活の中での不慮の死。
それほどに混沌とした地で、正義の何たるかも不明な戦争というもの。
ドクはそういうことを隠蔽しようとする政府や軍に怒りを感じながらも、
決して声高に非難はしません。
ただ自分の手で息子を連れ帰り埋葬しようという意思を貫くことで、無言の抵抗をしているのですね。
そしてまた、このなんだかよくわからない戦争の有り様を、
かつて自分たちが従軍したベトナム戦争と重ね合わせている。



実はその30年前、彼ら3人の上にある事件があったのです。
そのためにある一人の青年が悶え苦しみながら死なねばならなかった。
その時のことが彼らの中で大きなトラウマとなっているのです。
おそらく、ミューラーが牧師となったこともそのことと関係なくはないのでしょう。



この老人たちの旅に、一人の若者を配したところがまた良かった。
亡くなったドクの息子の友人、兵士ワシントンです。
彼は上官に命じられて3人の旅に付き添うことになったのですが、
任務に徹しようと硬い表情をしていたワシントンと3人は次第に心をかわすようになっていきます。
旅を続けながら、傷ついた心を抱えていた彼らが再生していく。
そのことには、この若いワシントンのまだこれからを生きようとする力も影響していたに違いありません。



正義とは、愛国心とは何なのか。
権力者はひたすらこんな言葉で国民を煽るけれども、
何であれ、それがもたらす死は虚しく、そして悲しいことでしかないのですね。
語り口は軽いのですが、深い内容をもった、素晴らしい作品でした。

<ディノスシネマズにて>
「30年後の同窓会」
2017年/アメリカ/125分
監督:リチャード・リンクレイター
原作:ダリル・ポニックサン
出演:スティーブ・カレル、ブライアン・クランストン、ローレンス・フィッシュバーン、J・クイントン・ジョンソン、ユール・バスケス

戦争を考える度★★★★☆
満足度★★★★★



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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんばんは (ちっぷ)
2018-07-06 22:19:32
『30年後の同窓会』。
もともと私がスティーブ・カレルを好きだったというのもありますが、観てみたい作品です。
貴女は映画評論家よりも上手ですね。
ローレンス・フィッシュバーンも出てるんですか。
間違いなく1800円を払っても観に行く価値がある映画です。    
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1100円 (たんぽぽ)
2018-07-07 11:13:08
ちっぷさま
私は評論家ではなくて、「鑑賞者」ですから・・・。
私は「マトリックス」で、ローレンス・フィッシュバーンを知りましたが、もしかして同じかな?

シルバー料金なので、私は1100円で見てしまいましたよ!! 年をとって良いことはそれくらい・・・。
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1000円! (たんぽぽ)
2018-07-07 11:20:15
追伸
あ、よく考えたらここの映画館は1000円でした!!
まともに払う人に悪いような・・・。でも考えてみたらシルバー料金になる以前にも、私は相当映画に貢献しているわけなので、許してください・・・
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